【Q】
徐脈性不整脈,頻脈性不整脈にペースメーカー(pacemaker:PM),植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)などの植込みデバイスを用いた治療が広く行われています。従来は,このようなリズムデバイス(rhythm device:RD)が留置された症例はMRI撮像不可能でしたが,近年,MRI撮像可能なPM,ICDが登場しました。個々の症例でRDを選択する際にMRI撮像可否をどのように考えるか,RD留置に多数の経験を有する名古屋第二赤十字病院・吉田幸彦先生のご教示をお願いします。
【質問者】
合屋雅彦:東京医科歯科大学医学部循環制御内科学講師
【A】
わが国でMRI対応RDが導入されたのは2012年10月で,メドトロニック社(MED)のDDD-PMが最初です。その後,13年4月にバイオトロニック社(BIO),13年7月にセント・ジュード・メディカル社(SJM),14年2月にボストン・サイエンティフィック社(Boston)からもMRI対応PMが発売されるようになりました。
MEDから最初に発売されたMRI対応PMは,DDDでなければMRI撮像ができないため,VVI適応の症例でもDDDが植込まれることがありましたが,現在はBIO,SJM,BostonからVVIでもMRI撮像が可能な機種が発売され,そのような無駄はなくなりました。
ICD,CRT(cardiac resynchronization therapy)については,従来はBIOしかMRI対応のものはありませんでしたが,14年11月にMEDからもMRI対応ICDが発売されました。MRI対応RDはリードもMRI対応であることが必須で,電池だけMRI対応に変更してもMRI撮像はできません。したがって,一部の特殊な症例を除いて,新規植込みの場合しかMRI撮像はできません。
MRI対応と言っても,いつ,どこでも,気軽にMRIが撮像できるわけではありません。現在発売されているMRI対応RDはすべてが1.5TのMRI対応で,3TのMRI機種では撮像できません。部位にも制限があります。BIOのPM,ICDは14年8月末発売の機種までは胸部の撮像はできませんし,CRTは現在も胸部の撮像はできません。
そのほか,すべてのMRI対応RDで,撮像前に設定をMRI撮像モードに切り替える必要があります。したがって,「条件付MRI対応」と呼ばれ,医療安全上の問題で,循環器内科医,放射線科医,放射線技師,臨床工学技士が所定の講習を受講した施設でなければ撮像は認められていません。また,撮像を許可された施設でも,これらを理解した医師・技士が常駐しているわけではなく,通常は昼間の予約撮像のみで,夜間や緊急時にも撮像できる施設はかなり少ないのが現状です。
それではMRI対応RDはどのくらい日常臨床に役立っているのでしょうか。当院では年間約100例の新規植込みがされていますが,本当にMRI撮像が必要になった症例は2年間で1例のみで,かなり少ないのが実情です。しかし,長い目で見れば有用な症例が増えていくでしょうし,患者さんはほぼ間違いなくMRI対応機種の植込みを希望します。したがって,PMについてはほとんどの施設でMRI対応のものが選択されています。ICDも今後各メーカーがMRI対応機種を発売するので,MRI対応機種の使用頻度が増えると考えられます。
CRTに関しては,左室リードも同じメーカーのものを使用しなければMRI撮像はできません。現時点では,BIOには4極リードがありませんし,使用可能な2極リードも解剖学的条件によっては留置できないことがありますので,まだまだMRI非対応のものが選択されています。しかし,各社がMRI対応機種を発売するようになれば,当然MRI対応機種が選択されるようになるでしょう。