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経カテーテル大動脈弁バルーン拡張術の実際と今後の展望

No.4749 (2015年05月02日発行) P.56

細川 忍 (徳島赤十字病院循環器内科部)

登録日: 2015-05-02

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

経カテーテル大動脈弁置換術の実施施設がわが国でも徐々に増加しています。しかし,実施にあたっての施設基準(高額な医療機器や多職種の連携が必要である)などの問題から実施できる施設は限られます。一方でバルーンによる大動脈弁拡張術が見直され,特にイノウエ・バルーンを用いた順行性大動脈弁バルーン拡張術は,「内科的カテーテル手技」として価値があるように思います。経カテーテル大動脈弁置換術時代における経カテーテル大動脈弁バルーン拡張術の実際と,今後の展望について,徳島赤十字病院・細川 忍先生のご教示をお願いします。
【質問者】
中村 猛:京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学学内講師

【A】

重症大動脈弁狭窄症に対するバルーン形成術(balloon aortic valvuloplasty:B AV)は1990年代に欧米で多くの症例に施行され,1.6~9.4%の術中死亡率,25~31%の手技中主要合併症発生率,1年生存率約70%以下,2年生存率50%以下と惨憺たる結果でした。この後,BAVの件数は急速に減少しました。しかしその後,経皮的大動脈弁置換術が行われるようになり,術前処置として再度注目されています。
これまで大腿動脈から施行される逆行性がほとんどでしたが,日本ではイノウエ・バルーンを使用する,僧帽弁交連裂開術の経験から大腿静脈から心房中隔経由で順行性に施行する施設もあります。逆行性に対し,手技は複雑ですが,(1)止血が簡単で穿刺部のトラブルが少ないこと,(2)ガイドワイヤー(GW)が大動脈弁を通過しやすいこと,(3)動脈硬化による変化は左室側でなく大動脈側に存在することからGW操作に伴う塞栓のリスクが低いこと,が利点です。また,イノウエ・バルーンが通過すればサイズを段階的に漸増でき,拡張・収縮のスピードが速いので血行動態に与える影響が少ないことも大きなメリットです。
私たちの施設で,2012年3月から14年6月までに,50例の症候性動脈弁狭窄症に対して順行性BAVを行いました。術中死亡は0で主要合併症は4例(8%)でした。合併症の内訳は5分以内の低血圧遷延2例,脳梗塞(回復し独歩退院)1例,輸血を必要とする穿刺部出血1例でした。院内予後としては,肺炎と胸部大動脈瘤破裂による2例の院内死亡を認めています。
1年生存率を見ると死亡8例(16%)で,内訳は上記2例に加え,心臓死(心不全)2例,肺炎2例,癌1例,脳出血1例でした。石灰化弁に対するバルーンでの拡張には限界があり,再狭窄を平均圧較差40mmHg未満と定義すると,再狭窄率は6カ月で50%,12カ月で58.3%でした。しかし,心不全入院は7例(14%)であり,症状の再燃までには少し時間があるのではと考えています。
BAVの使用目的としては,心臓手術以外の全身麻酔の術前処置,心機能低下が大動脈弁狭窄症によるものか否かの判定,経カテーテル大動脈弁置換術や外科的弁置換術へのbridgeとして,両者の適応がない症例には症状緩和目的として,などがあると考えています。

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