【Q】
女性に対する骨粗鬆症治療薬としては,女性ホルモン,選択的エストロゲン受容体調節薬(selective estrogen receptor modulator:SERM),ビスホスホネート(bisphosphonate:BP)などがありますが,どのような症例にどの種類の治療薬を選択するのがよいでしょうか。ビタミンD3製剤やビタミンK製剤の併用の目安はありますか。
新潟市民病院・倉林 工先生にご回答をお願いします。
【質問者】
北脇 城:京都府立医科大学大学院医学研究科 女性生涯医科学教授
【A】
骨粗鬆症の薬物治療では,骨密度(bone min-eral density:BMD)の増加や骨折防止はもちろんのこと,長期にわたる服薬継続性や服薬実効率が高く,重篤な副作用がなく,安全性が高いことが重要です。
骨粗鬆症治療薬の選択には,まず治療対象者の臨床的背景,合併症の有無,運動状況,栄養状況などの基本的な病歴聴取を行います。また,骨粗鬆症の病態が原発性か続発性か,骨折の有無,疼痛の有無を確実に診断することも重要です。続発性であれば原疾患の治療と併行させる必要があり,内科専門医などを受診してもらいます。骨折や疼痛があれば,まず整形外科専門医受診が望ましく,骨折を確実に予防できる薬剤やカルシトニン製剤のような疼痛軽減作用のある薬剤の選択も必要です。
(1)BPの適応
産婦人科医が行う骨粗鬆症の薬物療法ではBPとSERMが第一選択薬となります。特に高齢者,高骨代謝回転,既存骨折を有する重症骨粗鬆症などでは骨吸収抑制薬のBPが適応です。最近,BP製剤の5年以上の長期投与の骨折予防効果について疑問を呈する報告や,大腿骨転子下や骨幹部の非定型骨折が増加する可能性や顎骨壊死の報告もあります。しかし,BPには骨折予防効果の報告が多く,特に70歳以上の大腿骨近位部骨折予防やステロイド性骨粗鬆症に対する第一選択薬です。BPにより胃腸障害を訴える症例がありますが,連日内服に加え,週1回内服や最近は月1回内服の錠剤や点滴静注製剤やゼリー製剤も発売され,コンプライアンスの改善も期待されます。
(2)SERMの適応
一方,BPによる胃腸障害,早朝空腹時の内服での不具合,閉経後早期の生活習慣病予防への考慮,5年以上の長期薬物療法の場合などでは,SE
RMの選択の可能性が高くなります。SERMは,エストロゲン受容体に結合し,その構造変化を起こさせることで組織選択的に薬理効果を発揮します。骨に対しては骨吸収抑制作用による椎体骨折予防効果があります。BP製剤と異なり,その内服時間に制限はありません。SERMでは骨質の改善作用や骨外作用としての乳癌リスクの低下,脂質代謝改善効果もあります。ただし,更年期症状には無効であり,非常に稀ですが静脈血栓塞栓症の発症には注意が必要です。
(3)HRTの有用性
ホルモン補充療法(hormone replacement ther-apy:HRT)は,骨吸収を抑制し骨密度を増加させ,骨量減少や健常女性に対しても骨折予防効果があります。最近頻用されるようになってきた17βエストラジオール(17βE)経皮吸収薬(パッチ,ゲル)では,結合型エストロゲン内服に比べ血栓症のリスクを減少させます。更年期障害などでHRTを必要とし,かつ骨粗鬆症や骨量減少のある閉経前後の女性に対して,乳癌,子宮体癌や血栓症に注意しつつ閉経早期に適切に開始すれば,HRTは現在でも有効な骨粗鬆症治療・予防薬です。
(4)ビタミンD3製剤などの使用法
ビタミンD3製剤のアルファカルシドールは,閉経後骨粗鬆症,骨量減少の日本人女性に対して,BPやHRTに併用すると,単剤に比べ有意な骨折抑制や骨密度増加効果が認められます。近年,ビタミンDが転倒防止に効果があることが指摘され,その理由としてビタミンDが筋力向上に寄与している可能性が挙げられています。2011年に発売されたエルデカルシトールはアルファカルシドールに比べて単剤でも新規椎体骨折抑制効果が認められます。腸管からのカルシウム吸収能の低下した高齢者,あるいは閉経前の低骨量者,妊娠後骨粗鬆症などの比較的若い女性の長期投与にも有用ですが,高カルシウム血症,急性腎不全,尿路結石に注意が必要です。
ビタミンK2はわずかですが腰椎骨密度の上昇作用と椎体骨折予防作用があり,食事からのビタミンK摂取不足の患者さんには有効性が高いと考えられます。
副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)は間欠投与により骨芽細胞による骨形成を促進して骨量を増加させ,骨折を抑制します。主に骨密度低下の高度な骨粗鬆症や既存骨折のある重篤な骨粗鬆症に用いられるため,現状では整形外科専門医の管理下に使用されることが多いようです。
【参考】
▼ 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年改訂版. ライフサイエンス出版, 2012.