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MRSAによる骨髄炎の治療

No.4769 (2015年09月19日発行) P.62

渋江 寧 (CHO東京高輪病院感染症・総合内科)

登録日: 2015-09-19

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)による骨髄炎の治療期間については,ガイドライン上でも明確には示されていません。ケースバイケースではあるとは思いますが,MRSAの骨髄炎を,何をメルクマールに,どれくらいの期間治療されていますでしょうか。また,近年リネゾリドやダプトマイシンなどの新規抗菌薬も使用できるようになりましたが,従来のグリコペプチド系抗菌薬との使いわけはどのようにされていますか。JCHO東京高輪病院・渋江 寧先生のご教示をお願いします。
【質問者】
森 伸晃:国立病院機構東京医療センター総合内科

【A】

骨髄炎を診断する際に,数日から数週間かけて発症する急性骨髄炎と,数カ月から数年かけて発症し,時に腐骨や瘻孔の形成を伴って発症する慢性骨髄炎にわけて考えることが一般的です。また,発生機序として,菌血症の結果として起こる血行性播種による骨髄炎か,外傷や手術時のコンタミネーション,皮膚軟部組織感染症からの波及などによる接触性骨髄炎かを区別することで,カテーテル関連血流感染症のように単一起炎菌の可能性が高いか,糖尿病足壊疽や褥瘡感染のように嫌気性菌などの混合感染の可能性が高いかを判断します。
MRSAによる急性骨髄炎の治療期間として,血行性感染で感染性心内膜炎や血行性播種に伴う膿瘍形成に対する外科的手術,ドレナージが不要な状況であれば,6~8週間の抗MRSA薬投与が一般的とされます。また,接触性感染であれば6~8週間の抗MRSA薬に加え,複数菌の可能性があれば嫌気性菌カバーを考慮し,抗菌薬投与以外に外科的デブリードマンや切断術も部位によって検討します。ただ,慢性骨髄炎の状態と考えた際は菌のバイオフィルム形成などで難治化し,その再発率の高さから,年単位の抗菌薬投与が必要となることもあります。
特に慢性骨髄炎は抗菌薬療法のみでの根治が困難なため,血行性による初期の状態以外は壊死組織の除去と再血行のための外科的デブリードマンが治療の要であり,整形外科医へのコンサルテーションが必要です。デブリードマン後の血行再開には6週間,脊椎炎では3カ月程度かかるとされることからも,より長期の治療が原則と考えますので,厳密な治療期間の設定は難しく,臨床的な改善を総合的に判断していくしかないと考えますが,骨髄炎の病態であればCRPや赤沈などの炎症反応マーカーの陰性化も1つの判断基準になりえます。一方で画像変化は治癒後も改善が遅れるため,現状では指標にしづらく,たとえば治療開始後のMRIでの効果判定はかえってミスリーディングになるかもしれません。
抗MRSA薬としてリネゾリドやダプトマイシンなどの新規抗菌薬もあり,骨髄炎に対しても有効であるという報告も散見されますが,これらの多くはin vitroのデータであり,バンコマイシンと比べて治療効果が優れているとした質の高い臨床研究は今のところないと考えます。よって,現時点での第一選択はバンコマイシンであり,新規抗菌薬はあくまで代替薬として位置づけられると認識しています。
ただ,腎機能障害やアレルギーの存在,バンコマイシン投与で奏効しないなどの場面では治療の選択肢に挙がるかと思います。2~6週間の静注投与後は菌の感受性を確認した上で,クリンダマイシン,ミノサイクリン,ST合剤などの経口薬へスイッチし,残りの期間を治療することが一般的と考えます。人工関節感染症など,よりバイオフィルム形成の関与が疑われる際にはリファンピシンの併用や,年単位の抗菌薬投与を考慮することもあります。

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