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インクレチン関連薬における心血管疾患予防のエビデンス

No.4775 (2015年10月31日発行) P.60

綾織誠人 (所沢ハートセンター臨床研究部長/ 防衛医科大学校神経・抗加齢血管内科)

登録日: 2015-10-31

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

新しい作用機序を持つインクレチン関連薬のDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬,GLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬が登場し,近年,糖尿病の日常診療で汎用されるようになってきました。それは,これらの薬剤が比較的安全性を有しているとともに,一定の効果を期待することができることによると思われます。
一方,糖尿病診療においては,治療で重視される観点が細小血管障害の予防から大血管障害の予防へシフトしつつあるように感じています。そこで,心血管疾患に対するインクレチン製剤の予防効果は現時点でどの程度まで明らかになっているのか,所沢ハートセンター・綾織誠人先生のご教示をお願いします。
【質問者】
永山大二:新小山市民病院内分泌代謝科部長

【A】

まず確認したいのは,糖尿病治療薬が心血管疾患などの大血管障害を減少させたことを証明した臨床試験はきわめて少ないということです。さらに,単剤での予後改善効果を,プライマリーエンドポイントで示したランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)はいまだにありません。このことは,スタチンや降圧薬とは対照的に,血糖を管理することが心血管疾患発症予防になるのか,という根本的な疑問が解決されていないことを物語っています。
インクレチン関連薬は,特にDPP-4阻害薬を中心に,低血糖が少なく,心血管イベント低減における効果が期待されていますが,最近発表された2つのRCTをみてみると,SAVOR-TIMI53(サキサグリプチン)とEXAMINE試験(アログリプチン)の結果が示したのは,DPP-4阻害薬で血糖値を下げても心血管疾患は減らない,ということでした。
とはいっても,本当にDPP-4阻害薬の心血管疾患予防効果がないのかは,いまだ明らかではないと思います。なぜなら,両試験の観察期間は2年前後であり,スタチンや降圧薬のRCTと比較して短いことが結果をネガティブに導いた可能性があるからです。UKPDS試験では,試験終了後の長期観察により初期の糖尿病コントロールが5年以上先の心血管イベント低減に重要であるという「レガシー効果」が示されました。
このように,血糖コントロールが好ましい結果を生むのにある程度期間が必要である可能性があるにもかかわらず,上記2試験のような不適切な試験デザインで薬剤の効果をみることの愚は正されるべきだと思います。今後,インクレチン関連薬のみならず,心血管疾患予防効果のある糖尿病治療薬創出に向けて,適切な医師主導RCTが行われることが期待されます。

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