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自己炎症症候群の概念とブラウ症候群の診断・治療

No.4776 (2015年11月07日発行) P.62

神戸直智 (関西医科大学皮膚科学准教授)

登録日: 2015-11-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

自己炎症症候群(autoinflammatory syndrome)という新しい疾患名を最近耳にします。皮膚症状を伴うことも多く,疑わないと診断が難しいようです。
(1) 疾患概念と代表的疾患の症状について。
(2) 実際にどのような症状をみたときに鑑別として考えるべきでしょうか。また診断に必要な検査(専門施設に紹介する前に行うべき検査)にはどのようなものがありますか。
(3) 実際にどのような治療が行われ,その効果はいかがでしょうか。
以上,関西医科大学・神戸直智先生のご教示をお願いします。
【質問者】
大山 学:杏林大学大学院医学研究科皮膚科学教授

【A】

自己炎症症候群は,家族性地中海熱と同様の臨床症状を呈しながらも優性遺伝形式で発症し,それまでfamilial Hibernian feverとも呼ばれていた疾患にTNF(tumor necrosis factor)受容体をコードするTNFRSF1Aに異常があることが同定され,TRAPS(TNF receptor-associated periodic syndrome)の名称で報告された,1999年のCellの中で提唱された疾患概念です。
反復もしくは遷延する発熱を特徴とする全身性の炎症性疾患ですが,病状を説明しうる感染病原体は検出されず,また自己免疫疾患とは異なって自己抗体や自己反応性T細胞などは認めず,むしろ自然免疫系の破綻を背景とするという共通の特徴を有します。
代表的な疾患としては,家族性地中海熱,TRA PSのほか,メバロン酸キナーゼの欠損症であるHIDS(hyper IgD syndrome),NLRP3(NLR family,pyrin domain containing 3)の異常に伴ってIL-1βが過剰に産生されるCAPS(cryopyrin-associated periodic syndrome)などが挙げられます。
それぞれ非常に特徴的な臨床症状を呈する疾患ではありますが,その詳細は「自己炎症性疾患サイト」(http://aid.kazusa.or.jp/2013/)をご参照下さい。
ここでは,2015年1月から改訂施行された指定難病(110疾病)に,110番目の疾患として認定されたブラウ(Blau)症候群について紹介します。
(1)ブラウ症候群の症状
ブラウ症候群は,1985年に皮膚と関節,眼に4世代にわたって肉芽腫をきたす家族が報告されたのが最初であり,2001年にその原因遺伝子がNOD2であることが報告されました。常染色体優性遺伝を示す疾患ですが,わが国では孤発例がほとんどを占め,国内の症例数は50例程度と推定されています。
ブラウ症候群は,組織学的に肉芽腫を特徴とする疾患であり,典型例では痒みなどの自覚症状を伴わない粟粒大の充実性丘疹が集簇するといった皮膚症状が4歳以前から認められます。BCG接種が発症の誘因となった症例が報告されています。その後,関節症状,ついで眼症状が出現します。通常のサルコイドーシスで高頻度に確認されるBHL(bilateral hilar lymphadenopathy)は本症にはみられず,逆に通常のサルコイドーシスでは稀とされている関節症状が主体をなすという違いがあります。
(2)症状の特徴と検査
関節症状が非常に特徴的であり,特に手関節および足関節の背面が無痛性・嚢腫状に腫脹する患者さんを診たら,ほぼ本症に間違いありません。関節エコーを用いた検査では,非常に特徴的なことに,病変の主体が初期には腱鞘にあることが確認されます。したがって,皮膚からの生検組織で肉芽腫を認め,これに加えて関節症状を伴っていた場合には,ブラウ症候群を念頭に置いて診察を進めて頂けたらと思います。
なお,眼症状は病変が眼球全体に及ぶという特徴を有するものの,皮膚,関節,眼といった3主徴の中で最も遅れて出現することから,診断時には必ずしも眼症状を伴わない患者さんもおられます。
(3)治療:ステロイド・抗TNF-α抗体など
治療は現時点では残念ながら,CAPSにおけるIL-1βを治療ターゲットとしたカナキヌマブのような,特異的な治療法は確立していません。しかしながら,まだブラウ症候群という病気が今ほど認知されていなかった頃,一部の患者さんはJIA(juvenile idiopathic arthritis)として加療されていました。
そのような中で,比較的大量のステロイドが投与された患者さんでは関節や眼の症状が進んでいないと言われています。また,抗TNF-α抗体による治療を受けた患者さんは関節の炎症を抑えられたとも報告されています。
今回,指定難病に認定されたことで,本症の存在が多くの先生方に認知され,その結果として収集された臨床情報に基づいて特異的な治療法が確立され,それを患者さんに還元できる日が来ることを願っています。

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