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AmpC遺伝子を持つグラム陰性桿菌の抗菌薬治療

No.4783 (2015年12月26日発行) P.56

岡 秀昭 (JCHO東京高輪病院感染症内科医長)

登録日: 2015-12-26

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

腸内細菌科のグラム陰性桿菌で,染色体にclass Cのβラクタム分解酵素でセファロスポリン分解酵素AmpCの遺伝子を持っている一群(Serratia marcescens,Enterobacter spp.,Citrobacter spp.など)は,第1~第3世代セフェム系抗菌薬に曝露され続けると,その酵素AmpCを過剰産生するようになり,ときどき誘導耐性を示すことがあることが知られています。
膿瘍や骨髄炎といった根治的治療に抗菌薬長期投与を要する感染症で,まだAmpC過剰産生をしていない段階で,その類の菌が起因菌と判明している場合に,どの抗菌薬により標的治療を行うか判断に悩むことがあります。実際にどのような治療選択肢が考えられるでしょうか。JCHO東京高輪病院・岡 秀昭先生のご教示をお願いします。
【質問者】
大場雄一郎:大阪府立急性期・総合医療センター 総合内科医長・部長代理

【A】

まず,AmpCを過剰産生しているこれらの腸内細菌に対する標準的かつ安全な治療薬は,メロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬です。また,セフェピムのような第4世代セファロスポリン系抗菌薬も,比較的class Cβラクタマーゼに安定であり,おそらく使用できると考えられています。
セフトリアキソンなど,第3世代のセファロスポリンに感受性がある場合に使用してもよいのかどうかについては,専門家の間でも意見がわかれているのが実情です。
他の選択肢としては,感受性があればアミノグリコシド系,ニューキノロン系,そしてST合剤などのほか,ペニシリン,セファロスポリン系のようなβラクタム構造を持たない薬剤も有効と考えられます。
菌と抗菌薬のみで考えると,以上が主な選択肢となりますが,そうするとカルバペネム系ばかりが選択されることになり,将来的にカルバペネム耐性腸内細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE)の増加を促す懸念があります。
実際の診療では,菌と抗菌薬以外に,外科的な切除やドレナージなどのソースコントロールの可否も,このような腸内細菌が原因菌になる感染症では予後を左右します。経験的に,尿路感染では尿中に抗菌薬が高濃度に濃縮移行するため,菌の感受性以上に良好な効果をもたらしますし,化膿性胆管炎では内視鏡的ドレナージが行われれば速やかに軽快することが多くみられます。カテーテル血流感染症でも,感染性心内膜炎や椎体炎などの合併症がない場合は,カテーテルが抜去されていればしばしば改善します。通過障害のない腎盂腎炎,ドレナージされた胆管炎,カテーテルが抜去されたカテーテル血流感染症では患者のバイタルサインが安定しており,感受性があれば私はセフトリアキソンを使用することもあります。しかし,先日経験した人工血管置換術後のセラチア(Serratia)菌によるカテーテル血流感染症では,無理をせずにセフェピムを使用しました。
これらの菌による脳外科手術後の重篤な細菌性髄膜炎,敗血症性ショックなど重篤な感染症であれば,躊躇なくメロペネムを使用すると思います。
ご質問のドレナージが不十分な膿瘍や骨髄炎では,私は初期にはセフェピムを使用し,感受性によりST合剤やニューキノロン系抗菌薬の内服に変更して長期治療の完遂をめざします。膿瘍や骨髄炎の多くは慢性経過で治療が長期化するため,カルバペネム系の使用は避けたいと考えますが,第3世代セファロスポリンの長期使用中のAmpC過剰産生による誘導耐性が心配なので,セフトリアキソンは使用していません。
最後に,AmpCの遺伝子を有する細菌でも,菌種によってAmpCを過剰産生する頻度は違います。Enterobacter spp.には最も注意が必要だと思います。
以上のように,菌と抗菌薬だけでなく,患者の診断,病状,菌の種類を加味して選択薬を決定していくしかないというのが実情なのではないでしょうか。

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