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スミスリン抵抗性のアタマジラミ症への対応【梳き櫛による駆除はスミスリン抵抗性のシラミにも有効】

No.4794 (2016年03月12日発行) P.54

高橋健造 (琉球大学医学部皮膚科准教授)

登録日: 2016-03-12

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

スミスリンR抵抗性のアタマジラミ症があると聞きました。スミスリンR抵抗性の病態,鑑別のポイント,対応策について,琉球大学・高橋健造先生のご教示をお願いします。
【質問者】
青山裕美:川崎医科大学附属川崎病院皮膚科教授

【A】

アタマジラミ症は基本的にはシラミによる虫刺症ですが,蚊など一過性の虫刺とは異なりアタマジラミが頭髪に潜み何度も吸血することから,シラミ特異的なIgEが産生されアレルギー炎症が遷延し,非常に強い痒みが持続します。
一般医薬品であるスミスリンR製剤を家庭で使用してもらうことで,数日で治癒していましたが,最近,わが国でもスミスリンRを丹念に使用しても治癒しない症例が密かに蔓延しています。スミスリンRの有効成分はピレスロイド系殺虫剤であるフェノトリンであり,シラミなど昆虫類や両生類,爬虫類のナトリウムチャネルに作用し,神経細胞の過分極状態を持続することで,麻痺させて殺虫します。これまでの感受性アタマジラミは,1回のスミスリンR処置で幼虫と成虫をほぼ殺虫でき,虫卵への効果のため2日おきに2~3回の処置を行います。
しかし世界的には,1990年代からナトリウムチャネル遺伝子にアミノ酸変異を持つピレスロイド抵抗性のアタマジラミ症が報じられています。沖縄県内ではほぼすべてのアタマジラミが欧米のシラミと同じ抵抗性遺伝子を持っており,スミスリンRはまったく効きません。国立感染症研究所の調査でも,沖縄県以外の日本国内でも5%程度が抵抗性であり,特に茨城県や長野県など抵抗性アタマジラミが数%を占める地域も散見されます。今後は日本中でスミスリンRが効かないアタマジラミが蔓延すると思われます。
スミスリンR処置後,8~12時間経ってもシラミが動くようであれば,効果的に使用されていないか,シラミがスミスリンR抵抗性である可能性を考えます。追加処理でもアタマジラミが減らないようであれば,抵抗性として次の処置を考えます。古典的で手間はかかりますが,梳き櫛による駆除はスミスリンR抵抗性のシラミにも有用です。卵は0.3mmの大きさで,かなり目の細かいアタマジラミ専用の櫛が必要になります。ネット通販やペットショップでノミ用に販売されている櫛でも代用できます。
患児の毛髪をベビーオイルやリンスなどで濡らしてから,まずは普通のブラシでブラッシングし,次に目の細かなシラミ用の梳き櫛を使います。長髪や縮れ毛の場合,2cmごとにクリップなどで髪の毛を挾んで小分けし,順次,頭髪をまんべんなく梳く必要があります。おとなしい子どもの頭髪でも毎日の処理に10分間は必要で,この梳き櫛の処理を2週間くらい続ける必要があります。使用した梳き櫛は,歯ブラシなどで卵が残らないように洗い落とすか,55℃くらいのお湯に5分間浸すと,虫体も卵も死滅します。頭髪にドライヤー処理を強めにしても,ある程度の殺虫効果は得られますが,やけどしないように熱風の方向に注意し,まんべんなく数分ずつドライヤー処理する必要があります。
疥癬治療薬であるイベルメクチンは,スミスリンR抵抗性アタマジラミにも有効で,欧米では内服薬とローション製剤が医薬品として承認されています。沖縄県からの数多い要望を伝えてはいますが,現時点ではイベルメクチン製剤の販売,輸入元での国内治験承認へ向けた動きはありません。

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