【Q】
外来診療の限られている時間の中で,感染症の有無を評価することは難しいと感じています。菌血症があるか,もし菌血症があれば入院させたほうがよいのではないか,と自身の判断に漠然とした不安を感じることがあります。成人であれば,菌血症の予測因子として悪寒戦慄などの症状やSIRSの診断基準を満たすか否かといった所見をもとに考慮することがありますが,小児では十分な評価が行いにくいのではないでしょうか。どのような状況の際に入院適応があるのか,小児で血液培養を採取したほうがよいのかについて,国立成育医療研究センター・中河秀憲先生にご意見をうかがえれば幸いです。
【質問者】
内田大介 聖マリアンナ医科大学腎臓高血圧内科
【A】
救急外来を受診した小児に対して,特に感染症を疑ってどのようにアプローチしていくか,そして入院適応の判断については小児科医の間でも議論の尽きない話題で,ましてや成人領域が専門の先生方にとっては,さらに難しい問題かと思います。ただ,救急診療や感染症診療の原則は小児も成人も共通しているということと,逆に小児と成人で異なる点を意識しながら診療にあたることで,この悩みはいくらか解決できると考えています。
感染症診療の原則として,感染臓器と原因微生物を意識して臨床診断をつけるという点は小児も成人も変わりはありません。しかし小児が成人と異なるのは,患者本人から病歴・症状が聴取できないことが多く,また身体所見も正確に取りにくいという点です。それをふまえた上で,小児感染症と小児救急の両方の側面から重要なポイントを挙げてみます。
(1)月齢・年齢を意識する:同じ臨床診断でも月齢・年齢により原因微生物(=抗微生物薬の選択)が疫学情報として変わってくるので,事前に理解しておくことが重要です(詳細は成書をご参照下さい)。また,必然的に低月齢の児ほど入院の閾値は低くなります。
(2)バイタルサインを重要視する:自覚症状を訴えることが難しい小児だからこそ,バイタルサインの重要性は高まります。小児は(1)と同様に月齢・年齢ごとにバイタルサインの正常値も異なるため,私は表などにして持ち歩き,その都度参照しています。バイタルサインから考える重症度は抗微生物薬のカバーする範囲や入院適応の判断に重要です。ただ,啼泣により容易に頻脈になるため,泣かせない工夫が必要です。
(3)保護者の訴えは正しい:(2)と同様に自覚症状での判断が難しい以上,保護者の「いつもと違う」という印象は,まずは正しいものとして受け止め,より詳細な検索を進めていく姿勢が重要です。
以上の項目などを参考に,一部社会的な側面も併せて入院判断していることが多いと思います。
血液培養は小児でもやはり重要です。可能であれば複数セット採取を推奨していますが,これもバイタルサインや臨床診断によると考えます。3~36カ月の小児では,focus不明の発熱があるものの,比較的全身状態良好で血液培養陽性になるという“occult bacteremia”という疾患概念もあります(肺炎球菌ワクチンやHibワクチンの普及で頻度は低くなってきています)。
以下,成人領域が専門の先生方が小児患者を診察する際に参考となる書籍をご紹介します。
▼ 笠井正志, 他, 編:HAPPY! こどものみかた. 日本医事新報社, 2014.