【Q】
動脈血ガス所見から算出するA-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)について下記を。
(1)室内気吸入時のA-aDO2の正常値はいくらと考えればよいか。10Torr未満が正常と記載されていることもあれば,年齢により正常値は変わると記載されていて,おおむねの年齢の正常値が記載されているようなこともあるが,いずれが正しいのか。
(2)酸素吸入を行っている(FiO2:0.3~1.0)ときのおおむねのA-aDO2の正常値はそれぞれいくらになるか。 (大阪府 F)
【A】
[1]室内気吸入時のA-aDO2の正常値
A-aDO2は酸素化の評価に用いられ,計算したPAO2(肺胞気酸素分圧)から測定したPaO2(動脈血酸素分圧)を引くことにより求められる。「ハリソン内科学(第16版)」によると室内気吸入時の健常者では通常15Torr以下であり,この値は加齢に従って増大し,30Torrくらいになりうると記載されている(文献1)。
一方でA-aDO2の正常値は10Torr未満,もしくは年齢から換算される式(A-aDO2 =2.5+0.21× age in years)で求めるとの報告もある(文献2)。末梢気道閉塞や換気─血流比(VA/Q)不均衡が加齢に従い増加すると報告されており,A-aDO2は年齢とともに開大する(文献3)。日本呼吸器学会肺生理専門委員会が行った1838名の非喫煙者を被験者としたスパイロメトリー試験によると,年齢とともにA-aDO2の開大を認める (図1)(文献4)。
しかし,ばらつきが大きく年齢ごとの正常値を設定することは難しい。実際の臨床では30Torrを超えるような状態が問題となるため,年齢ごとの正常値よりも,開大を認めたときに患者の病態を考えて診断,治療を行うことが大切なのかもしれない。
[2]酸素吸入時のA-aDO2の正常値
吸気中の酸素分圧が上がると肺胞内や血液中の酸素分圧も上昇し,A-aDO2は吸気中の酸素分圧が上がるほど開大する。種々の酸素レベルにおけるA-aDO2の変化を図2に示す。その原因は主に(1)拡散障害,(2)VA/Q不均衡,(3)短絡の3つにわけられる。
(1)拡散障害とは,拡散能が低下して肺胞気酸素分圧が低くなり,A-aDO2開大に寄与することである。(2)VA/Q不均衡では,肺胞気酸素分圧が上がると血流が少ない肺胞でも換気の低い肺胞でも動脈血酸素分圧が高くなるため,ガス交換不均衡が解消されA-aDO2に寄与しなくなる。(3)短絡とは,気管支動脈流の一部が直接肺静脈に入り,また冠状静脈血の一部がテベシウス系静脈を通って直接左室内に入ることである。これらの経路をとった血液は全循環血流の1~2%とされるが,肺でのガス交換を受けないためA-aDO2の開大に寄与する。
肺胞気酸素分圧が上昇すると,それにより動脈内の酸素飽和度も上昇するが,短絡によるわずかな低酸素飽和度の血液が混じると,結果としてA-aDO2の開大につながるとされる(文献5)。また,年齢によってもA-aDO2の開大に差があるとされ,40歳以下の男性に100%酸素を吸入させた場合,A-aDO2は8Torrから82Torrまで開大し,40歳以上の男性の場合,3Torrから120Torrまで開大したとの報告もある(文献6)。
このように酸素投与によりA-aDO2は変化するが,年齢,喫煙歴などによりA-aDO2の開大にばらつきがあるため,酸素投与量による正常値を示したデータはない。
実際の臨床では,たとえ酸素投与下であったとしても,開大を認めた場合,酸素投与による開大なのか,ほかの原因による開大なのかを考えて診断,治療を行うことが必要である。
1) Dennis L. kasper, et al:Harrison’s Principles of Internal Medicine. 16th ed. McGraw-Hill Professional, 2004, p1590-1.
2) Mallemgaard K, et al:Acta Physiol Scand. 1966;67(1):10-20.
3) 鈴木基好:Med Technol. 1993;21(2):129-37.
4) 日本呼吸器学会肺生理専門委員会:日本人のスパイログラムと動脈血液ガス分圧基準値(2001年4月)
[http://www.jrs.or.jp/quicklink/guidelines/guideline/nopass_pdf/spirogram.pdf]
5) Farhi LE, et al:J Appl Physiol. 1955;7(6):699-703.
6) Kanber GJ, et al:Am Rev Respir Dis. 1968;97 (3):376-81.