【Q】
夜尿症患者の中には,生活指導,薬物療法,アラーム療法を行っても,あまり改善傾向を認めない患者がいる。開業医の場合,半年間あまり改善傾向を認めない症例は,潜在性二分脊椎や尿路奇形などの有無をチェックするために総合病院を紹介するため,その後どのような経過をたどったのか,わからなくなってしまう。そこで,難治性夜尿症患者が潜在性二分脊椎や尿路奇形を合併する頻度を。また,難治性夜尿症で基礎疾患を合併していない場合は,どのような治療を行えばよいのか。 (埼玉県 I)
【A】
一般的に,小児では3歳頃までに反射的排尿を抑制する高位中枢が発達するために,誘導すれば排尿が可能となり,それ以前にみられていた反射的排尿が消失し,昼間の遺尿がみられなくなる。さらに,4歳頃にはしだいに夜間の不随意排尿も解消し,自立排尿が完成していく。5歳を過ぎても月に数回以上,夜間睡眠中に尿を漏らす例を「夜尿症」と定義しており,わが国では5~15歳までの年齢層で約80万人が該当すると推定されている(罹患率約6.4%)。
[1]夜尿症の分類と鑑別
夜尿症は臨床的に2つの分類が行われている。1つは一次性(95%)と二次性(5%)という分類である。後者は,夜尿が6カ月以上にわたっていったん解消していたものが再燃した場合であり,尿路感染症,便秘症,脊髄疾患(脊髄炎,腫瘍など)などの有無の評価が必要である。これらが否定的であれば,心因性の可能性が高いと判断してカウンセリングなどの診療が必要となる。
もう1つは,単一症候性(60~90%)と非単一症候性(10~40%)という分類である。後者は,慢性便秘症,泌尿器科的疾患(尿路奇形,反復性尿路感染症など),代謝・内分泌疾患(糖尿病,尿崩症など),脊髄疾患(潜在性二分脊椎など),発達障害(ADHDなど)などの基質的疾患を有している可能性があり,昼間遺尿症の合併が存在した場合に考慮する必要がある。
International Children’s Continence Society(ICCS)では,以下の9項目を考慮した問診や診察が必要と提唱(2012年)している。
(1)昼間遺尿:3歳半以降も続く昼間遺尿はないか
(2)1日の排尿回数:3回以下,あるいは,8回以上は異常
(3)切迫性排尿はないか
(4)排尿をこらえている姿勢はみられないか
(5)下腹部を圧迫して排尿していないか
(6)尿線は強く描けるか
(7)便秘はないか
(8)ADD/ADHD(注意欠陥障害/注意欠陥多動性障害),自閉症の合併はないか
(9)学習障害や発達障害の合併はないか
これらのスクリーニングにて基礎疾患の存在が否定的であれば,(1)生活指導,(2)薬物療法,(3)アラーム療法の3点を試み,奏効しなければ専門医との連携を考慮する(図1)。
[2]難治性夜尿症の治療
生活指導で重要な点は,「一般的には飲水後約2時間後に尿生成が行われるので,夕食は就寝2時間前にすませ,それ以降の飲水は極力制限をする(10mL/kg未満とする)」ことである。同時に塩分の過剰摂取の制限も行う。就寝前に必ず排尿する習慣をつけることも再確認する。
夜尿症の児の2/3以上が夜間多尿であるため,抗利尿ホルモン製剤(DDAVP:1-deamino-8-D-arginine-vasopressin)(ミニリンメルトR)により夜間尿量を低下させることが効果的であり,60~70%で有効とされている。また,ICCSの推奨治療では第1選択の薬剤とされている(文献1)。ミニリンメルトは,120μg製剤で開始し,効果が不十分な場合は240μg製剤を使用する。OD錠は,従来のスプレー剤と比べて,効果発現までのタイムラグを考慮して,就寝直前の内服ではなく,就寝30分前に内服する(文献2)。また,錠剤を口腔内で崩壊させ,口腔粘膜から吸収させることが重要である。口腔内で崩壊させずに嚥下したり,服薬時に水分を内服すると十分な治療効果が得られない。内服前に歯磨きをすませ,内服後は飲水を控え,口をゆすぐことを避けることなども重要である。
DDAVPで効果が不十分であった場合は,機能的膀胱容量の増加を目的として抗コリン薬(副交感神経遮断薬)を使用する。これまでのオキシブチニン塩酸塩(ポラキスR)やプロピベリン塩酸塩(バップフォーR)に代わり,新しい世代のイミダフェナシン(ウリトスR,ステーブラR)やコハク酸ソリフェナシン(ベシケアR)のそれぞれOD錠が汎用されている。
昼間の遺尿や過活動膀胱の症状を合併する児では,ウリトスかステーブラ2錠(0.2mg)を2回にわけて使用し,体重が35kgを超える児では,効果が不十分な場合は倍量まで増量する。夜尿のみで昼間の症状を認めない児では,ベシケア2.5mgを就寝前に使用し,効果が不十分な場合は5mgに増量する。
薬物治療と並列した治療のオプションは,ブザーにより夜尿を知らせるアラーム療法である。本療法の有効率は65~70%で,中止後の再発は30~60%である。本治療の特徴は,覚醒排尿を促すのではなく,膀胱の排尿抑制力を高め,膀胱容量を増加させることにあるとされているが,その詳細は不明である。
Neveus(文献2)は「家族が患児と一緒に就寝し,アラームが作動した際,自力で起きることができなければ,親が起こすこと」「開始2週間後に(主治医が)電話を入れるなどして,治療継続の応援と技術的な問題を解決すること」さらに「6~8週間継続しても効果が得られなければ,一時中断すること」を推奨している。アラーム療法を成功させるためには,本人の努力のみならず家族の協力がきわめて重要である。筆者は,基本的には10歳以上の症例に対して薬物治療の補助療法としてアラーム療法を導入している。
近年,夜尿症の患児における終夜脳波検査の検討(文献3)から,患児の多くは,「浅くてクオリティーの低い睡眠が遷延している」ことが明らかになってきた。このことより,治療の一助として睡眠の改善が注目されてきており,欧州ではメラトニンの使用の臨床検討が行われている。
[3]漢方による治療
筆者らは,近年,漢方製剤である抑肝散を用いて良好な結果を得ている(文献4)。本剤は,漢方でいう「肝」の高ぶりを抑え,興奮やイライラ,筋肉の緊張などを鎮める方剤であり,もともと小児の夜泣き,疳の虫に使われてきた(文献5)。筆者らは,体重40kg未満の患児に,抑肝散2.5gを夕食後に内服させた。体重40kg以上の症例で,2.5gで効果が乏しい場合は5gへ増量した。本剤は苦みが強く,コンプライアンスに難点があるが,チョコレートアイスなどに混ぜると苦みがかなり軽減する。
2012年9月~2013年8月に,単一症候性の一次性夜尿症患児で生活指導にて改善しなかった症例250例にまず薬物治療を行った結果を概説する。(1)ミニリンメルト単独療法にて,109例(43.6%)で夜尿が消失,(2)残りの141例で,ミニリンメルトに抑肝散を併用し,56例で夜尿が消失,(3)残りの85例で,ミニリンメルトと抗コリン薬を併用し,24例で夜尿が消失,(4)残りの61例で,ミニリンメルト+アラーム療法を施行し,26例で夜尿が消失。以上の結果より,抑肝散が治療に難渋する夜尿症の治療の1つのオプションとなることが示唆された。
1) Neveus T, et al:J Urol. 2010;183(2):441-7.
2) Neveus T:Pediatr Nephrol. 2011;26(8):1207-14.
3) Yeung CK, et al:N Engl J Med. 2008;358(22): 2414-5.
4) Ohtomo Y, et al:Pediatr Int. 2013;55(6):737-40.
5) 抑肝散. jp. [http://www.yokukansan.jp]