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アルコールと心疾患の関連

No.4729 (2014年12月13日発行) P.53

和泉 徹 (恒仁会新潟南病院内)

登録日: 2014-12-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

アルコールの心機能への直接・間接的作用について。また,慢性心不全には完全な禁酒が必要か。 (富山県 S)

【A】

基本的に適度なアルコールは心筋毒性を示さない。たとえば,マウスやラットに強制飲酒を試みても,病理学上大きな心臓・血管異常は発生しない。それはアルコール性心疾患の良い実験モデルがつくられていないことで歴史的に証明されている。通常の動物は個体に害が発生する前に飲酒行動をやめてしまう。したがって,アルコールによる心臓・血管障害は嗜好習慣を強く持つ霊長類特有の疾病と言える。
たしなむ程度の飲酒習慣は“百薬の長”として古来勧められてきた。しかし,不適切な嗜好,大量アルコールの長期摂取習慣,すなわち依存症により脳・神経系のみならず全身を損なう多疾患有病者となる。心臓・血管病はそのひとつである。まず,アルコール依存状態は自律神経を大きく害する。副交感神経活性を失い,交感神経の暴走を誘ってしまう。その結果,高血圧にさらされ,不整脈基盤を刺激する。心肥大,心拡大,洞頻脈,心房細動・粗動,QT延長,悪性不整脈,心臓突然死はこうして惹起される。一方,肝臓や膵臓への直接障害はインスリンシグナルの低下を招き,糖尿病を誘発する。さらに,内皮細胞は機能不全に陥り,早期の動脈硬化症,虚血性心臓病が発生する。これが相乗・相加効果を伴い心臓・血管を害する。また,食生活のアンバランスは低栄養や電解質・ミネラル不足を招き,三重・四重の障害を心臓・血管系に与えてしまう。こうして,依存症から抜け出せない患者の平均余命は健常者よりも約30年も短くなってしまう。
アルコール依存症患者の調査ではアルコール心筋症の発生率は驚くほど低く,わずか0.14%である。おそらく,上記の要因が交絡し合い,干渉・増幅し合っても遺伝素因を持たない個体では心臓の拡張性心筋病変は惹起されないものと推察する。
慢性心不全患者の飲酒習慣は許容できない。断酒あるのみである。繰り返しになるが,ほど良い飲酒習慣がほど良い効果をもたらすのは健康人に限られる。副交感神経活性を害し,交感神経を暴走させる飲酒行動が,病んだ心臓・血管系に良い結果をもたらすはずがない。自律神経の活性を取り戻すこと,節制の行き届いた生活習慣こそが慢性心不全の再発・重症化を予防する近道である。

【参考】

▼ 竹端 均, 和泉 徹:Medical Technology. 2009;37 (10):1067-72.

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