【Q】
わが国では,なぜムンプスワクチンの予防接種が定期接種となっていないのか。
(山口県 Y)
【A】
わが国では1989年4月から麻疹ワクチン接種の際に,麻疹・ムンプス・風疹混合(MM
R)ワクチンの接種が開始され,定期接種としてムンプスワクチンの接種が可能となった。しかし,ムンプスワクチンによる無菌性髄膜炎の発症率(1/905~1/6564接種)が予想よりも高かったために,1993年4月にMMRワクチン接種が見合わされ,このとき以降,定期接種によるムンプスワクチンの接種が行われなくなっている。
1993年にMMRワクチン接種が見合わされたとき,わが国においてムンプスワクチン定期接種化に向けて必要なことは,「より安全なムンプスワクチンの開発導入」との見解が厚生労働省より示された。この結果,現在わが国で使用されている星野株,鳥居株は90年代に使用されていた株であるため,「より安全なムンプスワクチン」に該当しないということが当局の見解であり,定期接種化が進まない大きな理由となっている。
しかし,Urabe AM9株を含めたわが国のムンプスワクチン株は,欧米で広く使用されているJeryl-Lynn株(無菌性髄膜炎の発症率は1/100万接種)よりも無菌性髄膜炎の発症率は高いが,有効率は高いワクチン株である。
ムンプスは,発症時の年齢が高くなるほど無菌性髄膜炎や難聴などの合併症の頻度が高くなる感染症である。ムンプスワクチンを1歳時に接種すれば,2歳以上で接種するよりも唾液腺腫脹などの副反応出現率が有意に低いことが示されている。
また,全国から厚生労働省に寄せられた副反応報告数,調査期間中のムンプスワクチンの出庫数,および三重県のムンプスワクチン接種者の年齢構成から推定されるムンプス髄膜炎の発症率も,1~3歳で接種するほうが4歳以上で接種するよりも低率であり(文献1),1~3歳の無菌性髄膜炎発症率(1.9/100万接種)はJeryl-Lynn株とほぼ同等である。
以上のことから,星野株,鳥居株を1歳で接種すると安全で効果が高いことを提唱しているが,1993年の見解が足かせとなり,ムンプスワクチンの定期接種化が進まないのが現状である。この現状を打開するために,わが国へのJeryl-Lynn株由来株の導入が計画されている。
1) 庵原俊昭, 他:臨とウイルス. 2014;42(4):174-82.