【Q】
新規抗凝固薬(novel oral anticoagulants:NOAC)のバイオモニターについてご教示下さい。NOACは,その血中濃度と薬効である血液凝固能との相関性に乏しく,適切なバイオモニターがないと聞きます。ダビガトランのみ,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated par-tial thromboplastin time:APTT)がリスク指標として有用とされています。
たとえば,降圧薬を処方して評価する際は,血中濃度などではなく,降圧の程度で薬効を評価します。これと同様にNOACも,プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)またはAPTTのような血液凝固能で評価することはできるのでしょうか。血液凝固能とイベント抑制や出血リスクは相関しないのでしょうか。 (千葉県 K)
【A】
NOAC開発の重要なコンセプトは,固定用量,モニター不要ということであり,固定用量を用いてワルファリンを対照としたグローバル試験により有効性・安全性が検証されました。NOACは固定用量を使用するのが基本ですが,腎機能低下者などに対しては個々の薬剤で推奨されている減量基準にしたがって減量します。
出血の合併が少ないNOACとはいえ,時に重大な出血を合併するため,その予知に有効な指標があれば抗凝固療法を安全に行うことができます。また,(1)著しく高い血中濃度の可能性(低体重,高齢,腎機能障害など),(2)出血時や観血的処置前,(3)服薬中の血栓塞栓症発生,においてはNOACの抗凝固効果推定が診療上参考になります。
現在,日常診療でNOACの血中濃度を推定できるマーカーとしてAPTTとPTがありますが,これらは抗凝固強度の評価〔たとえばワルファリンにおけるPTの国際標準比(international normalized ratio:INR)〕ではないことに注意したいところです(文献1)。
APTTは,ダビガトランの血中濃度推定に有用で,トラフ値(次回服用直前の採血)が80秒以上の例では出血合併症が増加します。しかし,APTTが正常範囲であっても血中濃度が治療域より低いとは言えません(治療域内のこともあります)。
PT(INRではなくPT値そのもの)はリバーロキサバンの血中濃度推定に有用で,ピーク値(服用3時間後)が20秒以上の例では出血合併症が増加します(文献2)。PTが正常範囲内の場合の評価は,ダビガトランにおけるAPTTと同様です。
NOAC投与中に出血が起きた場合,APTTやPTが正常範囲ならNOACが原因とは言いがたいところです。ただし,リバーロキサバンと異なりアピキサバンの血中濃度推定に有用なマーカーはなく,エドキサバンについて十分な情報はいまだありません。使用する試薬によりAPTTやPTの測定値が異なることにも注意が必要です。
以上のように,APTTやPTを用いて投与量の調節や服薬アドヒアランスの評価を行うことは適切ではなく,現時点ではAPTTやPTによる投与量調節が効果を改善(出血をきたさず血栓塞栓症を予防)するというエビデンスはありません。日常診療では,血中濃度が過度に上昇する可能性のある場合(低体重,高齢,腎機能障害など)に,APTTやPTを念のために測定して,過度の血中濃度上昇のないことを確認するとよいでしょう(採血時間は上記を参照)。
【文献】
1) Cuker A, et al:J Am Coll Cardiol. 2014;64(11): 1128-39.
2) Nakao Y, et al:J Cardiol. 2014. [Epub ahead of print]