【Q】
過換気症候群と乳酸値の関係についてご教示下さい。過換気症候群の患者では,乳酸の異常高値を認めることが多くあります。アルカローシスが乳酸値を増加させるという意見がある一方で,乳酸値が高いことが過換気を引き起こすとの意見も散見します。
過換気症候群患者の乳酸値増加の関係は原因ですか,結果ですか。 (鹿児島県 Y)
【A】
乳酸(lactate)は嫌気性解糖の代謝産物であり,一般的にはショックなどの末梢循環不全の状態で重症度と相関する指標となります。そのほかに敗血症やビタミンB1欠乏,プロピレングリコール中毒,メトホルミンやアドレナリンなどの薬剤により,高乳酸血症とそれに伴うアシドーシスが引き起こされます。
一方で,呼吸性または代謝性の重症アルカローシスにおいて,解糖系のpH依存性酵素活性が亢進し血中乳酸濃度が上昇することが報告されており(文献1),この病態を乳酸アルカローシスと呼びます。当施設でもショックや上記薬剤使用のない過換気症候群の症例(大部分は若い女性)において,過換気の程度(PaCO2低下)と乳酸値には正の相関が認められました(文献2)。最近では,ter Avestら(文献3)が2011年のEmergency Medicine Journalに同様の報告をしています。
以上,質問者の指摘する通り,過換気状態にある患者に認められる乳酸アシドーシスは,原因としても結果としてもありうる病態です。しかし,乳酸値の上昇をきたしうるショックなどの原因疾患が存在せず,純粋に心因性の過換気症候群であれば,呼吸性アルカローシスに伴う乳酸値の上昇が結果として起こっていると推測することができます。
1) Bersin RM, et al:Am J Med. 1988;85(6):867-71.
2) 関井 肇,他:日救急医会誌. 2009;20(8):678.
3) ter Avest E, et al:Emerg Med J. 2011;28(4):269-73.