【Q】
水銀血圧計の製造が中止され,今後は電子血圧計が普及していくことになると思われます。これまでの経験から,電子血圧計のほうが収縮期血圧が高めの結果になることが多いと思っています。これは,両者がコロトコフ音の第1相と第2相のどちらを測定対象としているかで生じる差と考えていますが,実際はどうですか。 (千葉県 K)
【A】
水銀血圧計は,代表的な間接血圧測定法として血圧値の精度評価にも使われる標準になっていました。圧力計としての水銀柱は,水銀の危険性を理由として製造されなくなりましたが,ほぼ同等の精度を持つタイコス型の圧力計が使用できるので,現実的には大きな問題となっていません。
血圧測定における間接法は,一部の例外を除いて,血管を体外から圧力を加えて圧迫し,この圧と血管の拍動状態の変化との関係から血圧値を判定する方法です。一般的には,上腕部にマンシェットと呼ばれる腕帯(カフ:空気袋)を巻き,空気圧を加えて血管を圧迫します。
聴診法では,この空気圧が徐々に減ずるときに,カフの末梢側の動脈上で聞こえるコロトコフ音の発生および消失から,収縮期血圧(最高血圧)・拡張期血圧(最低血圧)を判定します。血管内圧は1心拍ごとに変動し,収縮期で高く,拡張期に低い圧力となります。カフ圧が収縮期血圧以下になると,血管内圧はカフ圧より上昇あるいは下降して,血管が開閉します。血管が開く瞬間に,血管内に生ずる急激な流れで発生する血管の振動が音として検出されます。
コロトコフ音の音色は,カフ圧の低下に伴って何段階かに変化しますが,この変化する点をスワンの1~5点と言います。第1点に対応したカフ圧を収縮期血圧,第5点を拡張期血圧と判定しますが,拡張期血圧については第4点,第5点のどちらが正確かは考え方のわかれるところです。両者は近い圧力値であり,主として消失点(第5点)が拡張期血圧とされています。
これに対して,電子血圧計で採用されている測定法は,コロトコフ音の検出ではなく,カフ圧に重畳した血管の脈動成分の大きさの変化から血圧値を判定するもので,オシロメトリック法と呼ばれています。この方法は,血管の圧と容積の関係に表れる血管弾性特性の非線形性に基づく計測法です。血圧の判定には,カフ圧の減圧過程で出現するカフ内の微小圧脈波列の大きさとその変化を分析する必要があります。
図1は聴診法およびオシロメトリック法で表れる,カフ減圧時のコロトコフ音および血管容積変化(カフ圧に重畳する微小圧振幅の変化)の様子を示したものです。
オシロメトリック法の特徴は,音の検出が必要でないため,ノイズに強いことです。血圧値の決定は内蔵された判定プログラムで脈波の振幅変化から計算されます。計算手法や設計は,必ずしも理論的に導出されるわけではなく,統計的に聴診法と一致した値が得られるように決定されています。その意味では,測定法が変わったとしても得られる血圧値に大きな違いが表れるわけではなく,質問にあるように,電子血圧計のほうが高い値を示すことにはなりません。
▼ ME技術講習会テキスト編集委員会, 編:MEの基礎知識と安全管理. 改訂第6版. 第10章, 血圧計. 日本生体医工学会ME技術教育委員会, 監. 南江堂, 2014.