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薬剤の一般名の末尾が共通するのはなぜ?【類似医薬品はstemで分類される】

No.4781 (2015年12月12日発行) P.65

三澤美和 (日本薬科大学薬学科教授/ 星薬科大学名誉教授)

登録日: 2015-12-12

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

同種の薬剤同士では,一般名の末尾が共通していることがあります(HMG-CoA還元酵素阻害薬のバスタチン,DPP-4阻害薬のグリプチン,SGLT-2阻害薬のグリフロジン,抗ウイルス薬のビル,抗体分子標的治療薬のマブなど)が,特別な規則はありますか。 (千葉県 K)

【A】

医薬品の一般名は近年はWHO医薬品国際一般名称委員会により国際一般名(International Nonproprietary Name:INN)として決定・命名され,世界共通名称として使用されています。日本での医薬品一般名も,INNをほぼそのまま取り入れたかたちで医薬品一般的名称(Japanese Accepted Names for Pharmaceuticals:JAN)となっています。
薬理学的あるいは化学構造的に類似した薬物群は,“Stem Book(WHO,2013)”(文献1) に記載(登録)されている同じ語幹(stem)を用いて命名されることが多くあります。同じ薬物群に属する類似した後発医薬品は,先発医薬品が登場したときに決定された同じstemを名称につけなければなりません。stemが同じであることで,それらは分類上,類似医薬品であることが明らかになります。
たとえば,抗ウイルス薬の末尾についているビル(-vir)はウイルス(virus)に作用する薬物ということで,末尾にビルをつけることが多くあります(アシクロビル,オセルタミビルなど)。分子標的治療薬のマブ(-mab)はモノクローナル抗体(mono-clonal antibody)医薬品ですので,末尾にマブをつけることになっています(リツキシマブ,トシリズマブ,インフリキシマブなど)。
stemは薬の名称の語尾につくことがほとんどですが,セフェム系抗菌薬の例ではstemはcef-であり,語頭に入れてセファゾリン(cefazolin),セフォタキシム(cefotaxime)などといったように命名に使用されます。もう少し長いstemの例を1つ挙げてみると,脂質異常症治療薬のHMG-CoA還元酵素阻害薬であるプラバスタチン,アトルバスタチンなどは,バスタチン(-vastatin)がstemです。一般にはより簡潔にスタチン製剤などと呼称されますが,stemはバスタチンです。メバロン酸(mevalonate)合成+stat(阻害の意味)+in(薬の一般的な語尾)という文字の組み合わせで-vastatinというstemがつくられたと推察されます。
stemはこのように医薬品群の特質を反映した英語スペルに由来することがほとんどであり,stemを知ればその薬の特質の一端がわかります。一般名を理解・記憶しようとする場合,あるいは薬の分類を知る上で,こうしたstemを利用することは有用であると思われます。現在,WHOによって400を超えるstemが作成され,医薬品一般名の命名に使用されていますが,まだstemを持たない医薬品群も多くあります。

【文献】


1) WHO:The use of stems in the selection of International Nonproprietary Names (INN) for pharmaceutical substances. 2013.
  [http://who.int/medicines/services/inn/Stem Book_2013_Final.pdf]

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