【Q】
降圧薬を朝より夜に内服したいとの希望が少なくないのですが(そのほうが忘れないとのこと),処方にあたって特に注意すべきことは何でしょうか。 (神奈川県 Y)
【A】
服薬アドヒアランスは,血圧コントロールの良否とともに心血管病の発症・予後に関係するため,患者の自主性を尊重して患者の生活に合った処方方針を決めることはとても重要です。もし就寝前の内服のほうが飲み忘れが少ないのであれば,積極的に就寝前の内服を勧めるべきでしょう。
生体機能のサーカディアンリズムを考慮した時間降圧療法という治療概念が広まっています。夜間高血圧は臓器障害を反映し(文献1),早朝高血圧や血圧モーニングサージは心血管イベントと密接に関連します(文献2)。一方,すべての降圧薬を早朝起床時にのみ内服している患者と比較して,就寝前に最低1剤以上降圧薬を内服している患者の総心血管イベントが約1/3であったという報告(文献3)などから,夜間高血圧や早朝血圧レベルを抑制する目的で,降圧薬の就寝前投与は有効と考えられます。また,血圧モーニングサージは交感神経活動の亢進が関与しており,α遮断薬を就寝前に投与することで覚醒時血圧に比べて早朝血圧レベルや血圧モーニングサージを有意に抑制(文献4)します。
高齢高血圧患者の場合には,夜間血圧の過剰な低下(extreme dipper)に注意が必要です。extreme dipperは脳血流量の低下と関連し(文献5),将来の脳卒中の発症リスクとなる(文献6)ことから,降圧薬の就寝前投与を含めた高血圧治療を開始する前に,24時間自由行動下血圧測定や夜間家庭血圧測定を行って,夜間の血圧レベルや血圧サーカディアンリズムを把握することが大切でしょう。
1) Ishikawa J, et al:Hypertension. 2012;60(4):921-8.
2) Kario K:Hypertension. 2015;65(6):1163-9;discussion 1169.
3) Hermida RC:J Am Soc Nephrol. 2011;22(12):2313-21.
4) Kario K, et al:Am J Hypertens. 2004;17(8):668-75.
5) Siennicki-Lantz A, et al:Eur J Neurol. 2007;14(7):715-20.
6) Kario K:Hypertension. 2001;38(4):852-7.