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メタボリックシンドロームに注目した健診の評価

No.4711 (2014年08月09日発行) P.59

八谷 寛 (藤田保健衛生大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2014-08-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

現在,特定健診ではメタボリックシンドロームに注目した健診が行われていますが,腹部肥満を必須項目とした現状の健診では,その重大な合併症である糖尿病,心筋梗塞,脳卒中の発症にどの程度寄与することが期待されるでしょうか。その寄与の大きさについて,日本人のBMIレベルが変化していることも考慮の上,ご教示下さい。また,肥満を合併しないハイリスク者への生活面での指導としては,どのようなことが重要になってくるでしょうか。
さらに,健診後の事後指導について標準化されたプログラムが使用されていますが,そのプログラムによる糖尿病,心筋梗塞,脳卒中予防効果の評価はなされているでしょうか。藤田保健衛生大学・八谷 寛先生にご回答をお願いします。
【質問者】
寳澤 篤:東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授

【A】

糖尿病,心筋梗塞,脳卒中は,国民医療費の増加だけでなく,障害や介護の主要な原因であり,いったん発症すると完全な治療が困難なことから,発症の予防がきわめて重要です。メタボリックシンドロームは,これらの疾患のハイリスク状態として注目されるようになり,2008年から特定健診・特定保健指導が導入されました。
メタボリックシンドロームを発見(特定健診)し,介入して改善を促すこと(特定保健指導)の,疾患予防に対するインパクトは,「人口寄与危険度割合」という指標,すなわちメタボリックシンドローム者をすべて発見し,なくすことができたら,標的疾患の発症数が何割ほど減るのかという指標を用いて推定されています。
わが国を代表する多目的コホート(JPHC研究)の40~69歳の2万3000名を10年間追跡した野田ら(文献1)の調査結果では,心血管疾患(心筋梗塞および脳卒中)についてその割合は男性で19%,女性で15%と報告されています。一方,肥満ではないが,1つ以上の危険因子を持つ者の人口寄与危険度割合は男性で33%,女性で25%でした。メタボリックシンドロームだけに注目した健診では,疾患発症の相当数を予防できない恐れがあることを示唆した結果と言えます。わが国では,肥満でないにもかかわらず高血圧や脂質異常といった,いわゆる「リスク」を有する者の割合が高く,そこからの疾患発症数が多いことによるのでしょう。実際,JPHC研究の別の論文で筆者ら(文献2)は,脳卒中発症の35%は高血圧,15%は喫煙をそれぞれなくすことによって予防しうるが,肥満では6%と報告しています。
しかし,今後わが国でも肥満者が増え続けた場合は,メタボリックシンドロームの人口寄与危険度割合は増加することが予測されます。正確な比較にはなりませんが,肥満者がわが国より多い欧州の一般住民(平均BMIが男性26.8,女性26.9)のDECODE研究結果(文献3)を用いて筆者が試算したところ,メタボリックシンドロームの心血管疾患死亡に対する人口寄与危険度割合は男性で41%,女性で28%でした。
したがって,現在の日本で既に中年期にある成人においては,メタボリックシンドロームに加え,肥満に関係なく高血圧,喫煙といった個別のリスク対策が実施されることが望ましいと言えます。さらに,男性における肥満者割合は長期的には増加傾向にあると判断され,今後,メタボリックシンドロームの寄与が増す恐れがあることから,若年時からの健康体重維持のための対策も重要であると考えられます。
さて今まで,健診によって発見されたメタボリックシンドローム者への対策は標的疾患の発症予防に有効であるとの前提で話を進めてきました。しかし,そうした介入の効果を厳密に評価することは,実は容易ではありません。前述の通り,特定保健指導では,腹部肥満を重視した基準により,対象者を情報提供,動機づけ支援,積極的支援と階層化し,標準的な介入方法をとることとされています。
現在,この標準的な特定保健指導と,非肥満者を含む集団健診受診者全員における標的疾患ハイリスク者を対象とした,医療連携を重視した重症化予防強化型保健指導の有効性評価が,厚生労働省の戦略研究として大阪大学・磯 博康教授を研究リーダーに開始されています。

【文献】


1) Noda H, et al:Hypertens Res. 2009;32(4):289-98.
2) Yatsuya H, et al:Stroke. 2013;44(5):1295-302.
3) DECODE Study Group:Int J Obes (Lond). 2008; 32(5):757-62.

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