株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

再発性漏斗胸への対処法

No.4717 (2014年09月20日発行) P.62

野口昌彦 (長野県立こども病院形成外科部長)

登録日: 2014-09-20

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

漏斗胸の手術はNuss法が一般的ですが,しばしば再発を認め,Ravitch法などを追加しても再発があります。次に行うべき手技について,できれば成人例に対するものも含めて,長野県立こども病院・野口昌彦先生のご回答を。
【質問者】
佐々木 了:KKR札幌医療センター斗南病院 血管腫・血管奇形センター長

【A】

一般的に再発部というと心窩部になるかと思いますが,左右胸壁の非対称性の再発や,季肋部の突出に伴う下部胸壁の陥凹変形(舟状変形)も問題です。再発に関し,まず重要なのは再発を予防することで,そのためには再発原因を考える必要があります。ポイントは再建胸郭形態(矯正位の程度)と抜去時の年齢(骨化の状態)です。
胸骨は5歳頃より胸骨体部尾側のセグメント間より骨化が頭側へと進行,14歳頃までに胸骨体の骨化が完了します。特に重要なのが第5胸肋関節部のセグメント間で,同部の骨化は10歳頃に生じます。一方,胸骨位置(高さ)の土台となるのが胸骨頭側成分,特に胸骨柄です。同部は胸鎖関節と胸骨柄結合(軟骨性)にて可動性を有し,バーの抜去に伴い,わずかですが同部は背側方向へ移動します。この変化に胸骨体部での骨化不良からの後戻りが重なると,陥凹変形の再発につながります。
また,胸郭形態の経年変化も重要で,胸郭形態は成長とともに扁平化します。経験上,13歳頃より横径の増大が優勢となりますが,初回手術後に軽度の陥凹を残した場合,この時期に心窩部の陥凹が目立ってくることがあります。
以上より,初回手術時には過矯正位に胸骨を挙上させること,また抜去時には胸骨体の骨化の状態を評価することが再発予防には重要です。一方,非対称性変形の予防には初回手術時に両側下部肋軟骨縁(第7,8番肋軟骨)の高さがそろうよう十分に挙上することが重要です。このような過矯正の場合,下部胸壁の陥凹による舟状変形が強調されることがあります。同時に季肋部の突出を伴うことが多く,修正術が必要な場合は,抜去時に季肋部肋軟骨の切除と,切除した肋軟骨を利用した陥凹部への移植にて対応しています。
次に,実際の再発例に対する治療ですが,再発範囲によりわけて対応します。心窩部のみの軽度再発例では吸引装置による対応を,また季肋部の突出や部分的な非対称性変形の場合は,上述した方法で対応します。再発が広範囲または高度である場合,基本的には再度Nuss法を施行します。
Ravitch法による再建は上部胸骨を基準とした胸骨の骨切りで行われますが,このような再発例は胸郭全体が薄く扁平胸郭を呈します。そのためRavitch法では胸郭全体に厚みを持たせるような再建は難しく,Nuss法での対応と考えます。
胸郭全体を矯正するため,上胸部(第3肋間),陥凹部(第4~5肋間),下部胸壁(第6肋間)などに複数本のバーを挿入することで形成します。また,挙上に必要な力を減ずることを目的に,変形肋軟骨の処理を併用することは有効です。肋軟骨の処理には,超音波凝固切開装置を使用し胸腔内から行う方法と,Ravitch法に準じ体表から行う方法があります。注意すべき点は,バーの支持肋骨と連なる肋軟骨には処理を加えない点です。初回手術の影響で肺と胸壁が癒着している場合があり,この際には内視鏡下の剥離操作を要します。

関連記事・論文

関連書籍

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top