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下肢末梢動脈疾患に対するカテーテル治療の現状

No.4734 (2015年01月17日発行) P.60

全 完 (近江八幡市立総合医療センター循環器内科部長)

登録日: 2015-01-17

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

わが国でも末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)の罹患率が上昇しており,治療に難渋するケースもあります。PADに対するカテーテル治療の進歩には目覚ましいものがありますが,バルーン拡張術,ステント留置術の治療成績,あるいは今後の新しいデバイスについて,近江八幡市立総合医療センター・全 完先生のご教示をお願いします。
【質問者】
木下法之:康生会武田病院循環器センター部長

【A】

下肢PADに関しての回答とさせて頂きます。下肢PADに対するカテーテル治療(血管内治療,endovascular therapy:EVT)は腸骨動脈,大腿膝窩動脈,下腿動脈の3領域にわけて論じる必要があります。

(1)腸骨動脈
腸骨動脈領域では自己拡張型,あるいはバルーン拡張型ステント留置を行うことができれば,その病変の重症度に関係なく良好な長期開存が得られることがわかっており(5年開存率≒80~90%),技術的に可能であれば,ほとんどの場合に低侵襲なEVTが選択される傾向にあります。

(2)大腿膝窩動脈
大腿膝窩動脈領域の場合は常に屈曲,伸展,捻れのストレスにさらされているために必ずしもステント留置(自己拡張型Nitinolステントが主流)が奏効するわけではなく,ステント自体の連続性が離断し破損した場合は高率に再狭窄が生じます。病変長が15cmを超え,複数のステント留置が必要な場合はさらに治療成績は悪化するため,病変およびその閉塞長や対象血管径,膝窩動脈に及ぶ病変範囲などを考慮して,外科的バイパス術のオプションも含めて対処すべきです。
バルーン拡張術とステント留置術を軸にEVTは発展し,腸骨動脈病変はステント留置術により克服されましたが,大腿膝窩動脈病変ではいまだに明確な答えは出ていません。パクリタキセルを病変に浸透させ,バルーン拡張後の再狭窄を軽減させる薬剤溶出バルーンは,ステントを使用しない治療戦略の柱として今後注目されることでしょう(病変長15cm未満に対する通常バルーン拡張術後6カ月での再治療率が37%に対し,パクリタキセル溶出バルーン拡張術群では4%と有意に低下,THUNDER trialより)。
また,ステント破損しにくい構造で,様々な動きに対応できる自己拡張型Nitinolステント(Mi-sago,Life,Superaなど)も次々に開発されており,良好な治療成績が報告されていますが,下肢PADに対する薬剤(パクリタキセル)溶出ステント(ZilverR PTXR )が初めて大腿膝窩動脈に対して治療適応を得ました。実臨床でのデータが待たれますが,大腿膝窩動脈領域ではベアメタルステント(bare metal stent:BMS)より薬剤溶出ステントで明らかに開存率が高いため,非常に有用なオプションの1つと言えます(1年開存率73%BMS vs. 89.9%PTX)。さらに,人工血管で被覆されたステント(GORER VIABAHNR)で病変をすべてカバーするデバイスが使えるようになれば,より重篤な病変でも良好な治療成績が得られる可能性があります。

(3)下腿動脈
下腿動脈に対してのEVTは重症虚血肢に対してのみ適応となります。わが国ではバルーン拡張術だけが唯一の治療手段で,その高い再狭窄率(3カ月後の再狭窄率は50%以上)のために複数回の治療が必要となることも多いのですが,海外では冠動脈用の薬剤溶出ステントもオンラベルで使用されつつあります。パクリタキセル溶出バルーンの有効性を示すデータもあり,この領域におけるEVT治療戦略は大腿膝窩動脈領域と同様に,まだまだ発展途上と言えるでしょう。

(4)今後の動き
今後も下肢PADに対するEVTはバルーン拡張術とステント留置術を軸に発展していくはずですが,プラークや石灰化病変の直接的な除去を目的としたDebulkingデバイスやレーザー焼灼によってこれらの治療法が補完され,臨床成績に寄与することが期待されています。

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