5月末、韓国の68歳男性が中東から帰国後、中東呼吸器症候群(MERS)と診断された。これを皮切りに二次感染、三次感染が相次ぎ、韓国の感染者は180人を超え、死亡者も30人を超えた。韓国内は大混乱の様相を呈したが、市中感染には至っていないことからWHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」には該当しないと結論づけた。
日本の検疫所では、中東や韓国から帰国後、高熱や呼吸器症状が出た場合、近医を受診する前に保健所に連絡するよう呼びかけている。MERSが国内発生した場合、入院治療は、第一種または第二種感染症指定医療機関が担うことになっているが、疑い患者が一般医療機関を受診する可能性はゼロではない。万一に備え、対応を確認しよう。
そもそもMERSとは、2012年に初の症例が報告されたMERSコロナウイルスによる呼吸器感染症だ。直接の感染経路はヒトコブラクダとの接触と考えられている(図1参照)。これまでサウジアラビアなど中東を中心に感染が確認されており、欧米、東南アジアで散発的に輸入症例が報告されてきた。
潜伏期間は2~14日間(中央値は5日)で、高熱、咳などから始まり、急速に肺炎を発症し、呼吸困難を呈するというのが典型的な臨床像とされる。
韓国感染症学会が、6月16日までに診断を受けて入院した患者の初期症状について調査した結果(表)によると、発熱が8割以上に見られた一方で、高熱の出ない症例も少ないながらあるようだ。また、高齢者や基礎疾患のある人では発症・重症化のリスクが高いとされ、韓国の発症例でも約6割は、高血圧症、糖尿病、癌、心疾患、慢性肺疾患などを持っていたことが分かっている。
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