入浴関連死亡事故は年間約1万9000件とも言われており,わが国の高齢者の死因として重大な問題となっている。冬場に多い入浴中の事故は,脱衣室と湯船の温度差がもたらす血圧の急激な変動が一因であるほか,自律神経機能や脳血流,凝固・線溶系の変化も関連している。救急搬送例を検証すると,入浴中の意識消失は再発も多い。また,ADLが自立している人も入浴中に死亡していることから,自身や家族による日頃の注意が非常に重要である。
世界各国の溺死事故を調査した統計によると,65歳以上の溺死者数はわが国が最も多いことが明らかとなっている。他国では池や湖,海といった場所が多い一方,わが国では浴室での溺死事故が多く,高齢者の入浴関連の死亡事故はわが国特有の問題である1)。欧米では,浴室は汚れを落とす場所として認識されているため,シャワー浴が主である。お湯に浸かるという行為は一般家庭で行うものではなく,家の外で行う非日常的な体験とされている。一方わが国では,入浴といえば湯船に浸かることを連想するほど日常的な行為であるが,皮肉なことに,この伝統的な文化とも言える入浴スタイルが死亡事故につながってしまっている。
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