悪性神経膠腫における化学療法の幕開けは,1980年,Walkerらによるnitrosourea系薬剤(BCNU)と放射線治療を含むレジメンの予後が良好であったことから,nitrosourea系薬剤が全世界で脳腫瘍の中心的な化学療法薬となった。わが国でも,ACNU(ニドランR)やMCNU(サイメリンR)が広く使用されるようになり,局所放射線治療との同時併用療法が膠芽腫の標準治療として実施されていた。近年,テモゾロミド(TMZ,テモダールR)の出現で,脳腫瘍の化学療法にも新たな進展が見られ始めた。
TMZは経口吸収性に優れた第2世代アルキル化剤で,血液・脳関門を通過しやすいという利点がある。その効果として,初発膠芽腫に対するTMZの放射線治療との上乗せ効果で約2カ月間の無増悪生存期間(PFS)の延長と2年生存率の有意な改善を認めるに至った。
初発悪性神経膠腫に対して,現在,世界的標準治療とされているものはStuppレジメンである。放射線単独群の全生存期間中央値が12カ月に対して,放射線治療(60Gy)+TMZ併用群は15カ月で,この両者間に有意な差が見られた(文献1)。さらに,2009年には登録症例の5年間に及ぶ追跡調査の結果,長期生命予後の改善も追加報告され,DNA修復酵素O6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)発現のない初発膠芽腫症例では,5年生存率13.6%となった(文献2)。
1) Stupp R, et al:N Engl J Med. 2005;352(10):987-96.
2) Stupp R, et al:Lancet Oncol. 2009;10(5):459-66.