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ゲノム薬理情報の臨床応用

No.4711 (2014年08月09日発行) P.56

藤村昭夫 (自治医科大学臨床薬理学教授)

登録日: 2014-08-09

最終更新日: 2016-10-26

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薬に対する反応性には大きな個人差があり,添付文書に記載されている用法・用量を守っても十分な有効性や安全性が得られないことがあるため,臨床の現場では個々の患者に対して個別化薬物療法を実施することが求められている。
近年,薬物代謝や薬物反応性に関連する遺伝子の解明が進み,一部の疾患では,患者ごとの個別化薬物療法が可能になりつつある。たとえば,薬物代謝関連遺伝子については,抗癌剤イリノテカンに関する情報が多い。
イリノテカンは体内で活性代謝物SN-38になり抗腫瘍作用を発揮し,その後,UDP-グルクロン酸転移酵素の1つであるUGT1A1で代謝されて不活性化される。しかし,UGT1A1遺伝子にある種の多型が存在するとUGT1A1の酵素活性が低下するためSN-38の代謝が遅延し,その結果,血中濃度が高くなり,有害反応が発現しやすくなる(文献1)。以上から,あらかじめ患者のUGT1A1遺伝子多型を知ることによってイリノテカンの個別化薬物療法が可能になると考えられており,2008年にUGT1A1遺伝子多型判定試薬が保険適用となった。
一方,薬物反応性関連遺伝子に関する解明も進んでおり,抗癌剤トラスツズマブ使用時のHER2発現解析,抗癌剤ゲフィチニブ使用時のEGFR遺伝子解析など,分子標的治療薬療法で既に臨床応用されている(文献1)。さらに経口抗凝固薬ワルファリンの治療効果は,標的分子ビタミンKエポキシド還元酵素と,薬物代謝酵素チトクロームP450 2C9の遺伝子多型によって大きく影響されることが明らかにされている。

【文献】


1) 安田早苗:臨床薬理. 2010;41(4):176-80.

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