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薬物応答の民族差と緑茶の影響

No.4720 (2014年10月11日発行) P.54

渡邉裕司 (浜松医科大学臨床薬理学・臨床薬理内科教授)

登録日: 2014-10-11

最終更新日: 2016-10-26

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薬物応答には民族差が存在する。たとえば,抗凝固薬ワルファリンや脂質異常症治療薬ロスバスタチン(クレストールR)の至適用量は,白人に比しアジア人では低用量である。薬物応答にこのような民族差を生じる機序として,薬物代謝酵素,薬物トランスポーター,薬物受容体や関連シグナル経路あるいはHLAの遺伝子多型などの内的要因が深く関わっており,さらに,食事や生活環境などの外的要因も関与することが知られている。特に日本人の場合は,外的要因としての緑茶の影響の有無は興味深い。
最近,2週間の緑茶(高カテキン含有緑茶700mL/日)飲用により,β遮断薬ナドロール(ナディックR)の血中濃度が約85%低下し,その結果,血圧および心拍数低下作用がほぼ消失することが報告(文献1)された(この結果はBBC Newsでも速報(文献2)されている)。同時にナドロールが薬物トランスポーターOATP1A2の基質となること,また,緑茶およびその主成分であるエピガロカテキンガラートがOATP1A2を阻害することも確認された。緑茶がナドロールの腸管吸収を阻害するため,血中濃度が上昇せず,薬物効果も発揮されないのである。
これらの結果は,我々日本人が日常摂取する緑茶が,医薬品の応答性における民族差の潜在的要因となる可能性を強く示唆している。今後,緑茶の飲用量と阻害の程度の相関性や,OATP1A2の基質となる他の医薬品に対する緑茶の作用の検討が必要となろう。

【文献】


1) Misaka S, et al:Clin Pharmacol Ther. 2014;95(4): 432-8.
2) [http://www.bbc.com/news/health-25716708]

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