B細胞リンパ腫の細胞起源は成熟B細胞であり,免疫グロブリン遺伝子が細胞膜上にB細胞受容体(BCR)として発現している。BCRにリガンドが結合すると,NF-κB,PI3K,mitogen-activated protein(MAP)キナーゼ,nuclear factor of activated T cells(NFAT),RASといった多様な細胞内シグナル伝達経路が活性化される。BCRシグナル経路は,正常B細胞だけでなくB細胞リンパ腫の生存・増殖に中心的な役割を果たしており,新たな治療標的として近年注目されている。
現在,約15種類のBCRシグナル経路阻害薬が開発されている。このうち,経口Bruton型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬ibrutinibは,B細胞リンパ腫の一種であるマントル細胞リンパ腫の再発・難治例に対して,単剤投与で奏効率68%(完全寛解率21%),無増悪生存期間(PFS)中央値13.9カ月という優れた有効性を示し(文献1),2013年に米国で承認された。また,経口PI3Kδ阻害薬idelalisibは,低悪性度B細胞リンパ腫の再発例を対象とした臨床試験において,単剤投与で奏効率57%(完全寛解率6%),PFS中央値11カ月という有効性を示した(文献2)。
抗CD20抗体薬リツキシマブを従来の化学療法と併用することにより,B細胞リンパ腫の患者の予後は改善したが,再発・難治例に対する治療の選択肢は依然として限定的である。今後,BCRシグナル経路阻害薬が臨床応用され,B細胞リンパ腫の治療戦略が大幅に進展することが期待される。
1) Wang ML, et al:N Engl J Med. 2013;369(6): 507-16.
2) Gopal AK, et al:N Engl J Med. 2014;370(11): 1008-18.