bardoxolone methylは生体の抗酸化機能を調節する転写調節因子であるNrf2を活性化する化合物である。慢性腎臓病(CKD)を伴う糖尿病患者における第2相臨床試験(BEAM試験)で,eGFRを改善するという効果を示したことで,世間を驚かせた(文献1)。それまでの腎臓病の薬剤が基本的に「腎機能低下の進行を遅延する」というものであったのに対し,この薬剤は「低下した腎機能を逆転する」ものであったことから,その結果は大きな衝撃をもって迎えられた。
期待を集めて行われた第3相臨床試験(BEA
CON試験)は,実薬群において心不全の有害事象が有意に多くみられたことから中止になり,世間を落胆させた(文献2)。しかしながら,「低下した腎機能を逆転する」効果はBEACON試験でも確認されており,また,並行して行われていた日本での開発研究では,心血管系の有害事象は認められていなかった。
それらの結果を詳細に解析して,欧米に比べ心血管系のイベントが少ない日本人では開発続行が可能と判断され,現在わが国で治験が再開されている。世界初の「低下した腎機能を逆転する」治療薬の開発がわが国で行われており,世界に発信できる可能性があることに,非常に興奮している。
1) Pergola PE, et al:N Engl J Med. 2011;365(4):327-36.
2) de Zeeuw D, et al:N Engl J Med. 2013;369(26):2492-503.