熱中症は, 労働衛生上の問題として積極的な予防対策(労働条件等の改善等)の取り組みにより一時は収束したかにみられた。しかし近年, 夏季の暑熱環境の長期化に伴い, 熱中症による死亡数は過去に比して増加している(文献1)。
2013年(平成25年)および2014年(平成26年)の夏季に,東京都23区で発生した熱中症死亡者の約8割は65歳以上の高齢者であり, 事例の約9割は屋内で発生していた(文献2)。屋内死亡例の過半数は単身居住者であり, 気温が急激に上昇する中,エアコンの稼働がない状況下で発生した(文献2)。
死亡者の既往歴として精神疾患, 神経変性疾患, 脳血管障害などのADL(日常生活動作)低下に関与する疾病が多く認められた(文献2)。近年の熱中症死亡の主たる予防対象は,高齢独居者などの社会的弱者であると考えられ, 気温の急激な上昇時には冷房の使用, 水分補給などの適切な対策を施すことが必要である。
熱中症は予防可能な不慮の外因死であり, 予防対策の確立のためには正確な死因統計や,事例の解析が今後も必要である。剖検率の低い監察医制度施行区域外では, 剖検率の高い施行区域内に比べて熱中症死亡数が低く見積もられる傾向があることが示されており(文献3), わが国の死因究明制度のよりいっそうの改善が望まれる。
1) 中井誠一:公衆衛生. 2015;79(6):366-72.
2) 鈴木秀人:公衆衛生. 2015;79(6):384-6.
3) Suzuki H, et al:Leg Med (Tokyo). 2011;13(6):273-9.