治験薬を用いて臨床試験(治験)を行うときに,よく「新しいお薬で治療してみましょう」という説明を患者にすることがある。もちろん,抗悪性腫瘍薬のように,有効性を期待して治験薬を治療的意味合いで使用する場合もあると思う。しかし,治験は一般的な治療(診療)とは異なる。
治験の「目的」は科学的なデータを出すためであり,プロトコルに則ってすべての被験者に同様な方法で行われる。一方,治療の目的は個別的医療であり,患者ひとりひとりの病状に合わせて医薬品を選択し,患者個人に合った方法で行われるべきである。つまり,「目的」「方法」において「治験」と「治療」は根本的に異なっている。
また,治験の場合はすべて倫理委員会の承認が必要であり,わが国においてこの点は完全に履行されている。治験薬の有効性,安全性については,それまでの治験において一定の評価があるものが次のステップに進むのであるから,当然,有効性が期待される治験薬はある。
しかし,治験とは「治験薬の有効性と安全性が確立されていないから実施する臨床試験である」という大原則を考えると,治験薬による治験を通常の治療と同等にすることはできない。また,治験では必須の実施事項である文書同意取得も,治療では必須事項ではない。このように,治験は「臨床研究」としての原則を遵守して行われ,その目的が科学的データを適正に出すためのものであることを考えると,「治験は研究」であり,一般的な「治療」とは根本的に異なるという認識が必要である。