重症頭部外傷では一次性脳損傷によって,ある程度の転帰が決まってしまう。また,病態の多様性により,同じ治療を施しても個々の症例で治療効果は異なる。これらの理由により,重症頭部外傷においてはゴールデンスタンダード的な治療法の確立は困難をきわめている。
1990年代初めより,頭部外傷に対する脳低温療法の転帰改善の報告が散見され,脚光を浴びた。脳保護の機序としては,興奮性アミノ酸の放出抑制やカルシウムホメオスタシスの破綻抑制,活性酸素産生の抑制などが報告されている。しかし,2001年に行われた多施設共同臨床研究(RCT)では,その有効性を示すことができなかった。それ以降,頭部外傷における体温管理は積極的平温療法が主流となっている。
脳低温療法を構成する要素として,導入時間や維持温度,復温の速さ,対象疾患,患者年齢などが挙げられる。これらの要素を再検討し,米国で対象を若年者に限定し,導入時間をより速くし,2度目のRCTを行った。一次解析では脳低温療法の有効性を示すことができなかったが,二次解析の外傷性血腫除去術が必要な患者(evacuated mass lesion)では,脳低温療法による脳保護効果が認められた。evacuated mass lesionに対する脳低温療法の脳保護効果は,BHYPO study(日本で行われたRCT)や日本の頭部外傷データバンクにおいても同様に認められた。これらの結果を受けて,現在日米共同にてevacuated mass lesionに対象を絞ったRCT(HOPES trial)が行われている。脳低温療法によってevacuated mass lesionの飛躍的な転帰改善が期待されている。