脳組織にリンパ液の流れはない,ということが常識とされていた。しかし,2012年以来,米国のRochester Medical Center大学のNedergaardを中心とする研究者により,この常識が明らかに間違っていることが示されてきている(文献1,2)。
彼らは,血液脳関門(BBB)を形成しているアストロサイトのfoot processにあるアクアポリン4が主力となって,脳脊髄液(CSF)を脳の動脈側から間質に取り込み,静脈側に排泄する仕組みがあることをtwo-photon imagingを用いて明らかにした。また,彼らはこの脳のリンパ液の流れはβアミロイドなどの脳の老廃物のクリアランスに関係していることも明らかにしている。さらに,アクアポリン4のノックアウトマウスでは,正常マウスに比してβアミロイドのクリアランスが低下していることも示している。
このCSFの流れは常に存在しているわけではなく,睡眠と深い関係があることも示されている。すなわち睡眠時には,このCSFの流れるスペースが60%も増加することが明らかにされている(文献2)。このことから睡眠は脳にとって,非常に重要な老廃物処理時間であるということができる。
認知症患者の増加が問題となっている現在,睡眠の重要性がこの脳のリンパ液という観点から見直される時期にきていると感じている。
1) Iliff JJ, et al:Lancet Neurol. 2015;14(10):977-9.
2) Xie L, et al:Science. 2013;342(6156):373-7.