【Q】
気道の好酸球性炎症と相関するとされる呼気一酸化窒素を測定する機器として,新たにNIOX VERORが発売されました。この機器の特徴などについて,静岡県立総合病院・白井敏博先生にご回答をお願いします。
【質問者】
放生雅章:国立国際医療研究センター病院
第二呼吸器内科医長
【A】
1990年代の様々な研究により,喘息患者の呼気に一酸化窒素(NO)が高濃度に存在することが明らかとなりました。NOは誘導型NO合成酵素(inducible NO synthase:iNOS)の作用により,L-アルギニンからL-シトルリンへの変換過程で産生されることが知られています。一般に,呼気NOは喀痰中好酸球比率と相関を示すことから,非侵襲的に測定可能な好酸球性気道炎症のバイオマーカーであることが確立しています。
2013年6月にAerocrine社(本社:スウェーデン,国内販売:チェスト社)のNIOX MINORが保険適用となり,呼気ガス分析100点として診療報酬請求が可能となりました。呼吸機能検査等判断料140点を月1回請求できますが,呼気ガス分析が月に何回まで請求可能かは各都道府県の事情により異なります。その後,2015年3月に後継測定装置NIOX VERORが保険適用されました。NIOX MINORと比較して,NIOX VERORはバッテリー内蔵で,測定回数が3000回から1万5000回,使用年数も3年から5年に延長して使い勝手が飛躍的に向上しました。また,分析時間が1分40秒から1分に短縮されました。現時点ではNIOX VERORを用いた論文報告はありませんが,EUで上市される製品の基準適合マーク(CEマーク)を取得し,米国のFDAの認可も受けています。基本的に,NIOX MINORを用いて得られた知見をそのまま当てはめることが可能と思われます。
呼気NOの測定値を上昇させる因子には,ウイルス感染,アレルギー性鼻炎の合併があり,低下させる因子には,直前のスパイロメトリー,運動,喫煙があります。また,気道収縮により呼気NOが低下し,気管支拡張薬により上昇する奇異性変動が報告されています。ある種の食事(レタス,ホウレンソウなど)はL-アルギニンを多く含むため,呼気NOを上昇させる,という報告と影響を及ぼさない,という報告がそれぞれあります。
2011年に発表されたAmerican Thoracic Society(ATS)のガイドラインでは,50ppb(小児35
ppb)以上が好酸球性気道炎症の存在,ならびに気道炎症に基づく症状を訴える患者のステロイド反応性を示し,25ppb(小児20ppb)未満がそれらのないことを推奨しています。しかし,あくまでも補助診断として用いることを付記しています。一方,わが国ではNIOX MINORのハンドブックに成人健常者の正常値(15ppb)ならびに未治療で発作性喘鳴などの症状を訴える患者が37ppb以上のときに喘息診断はほぼ確実と記載されています。
近年ではCOPDで呼気NO高値を示す場合には,asthma-COPD overlap syndrome(ACOS)の可能性があり,吸入ステロイドに対する効果が予想可能と期待されますが,今後の検討が必要と思われます。