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抗リン脂質抗体症候群の鑑別と血栓・出血傾向の対処法 【臨床症状や血小板数の動き,血栓マーカーの値から判断】

No.4816 (2016年08月13日発行) P.55

家子正裕 (北海道医療大学歯学部内科学分野教授)

登録日: 2016-08-13

最終更新日: 2016-10-30

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【Q】

抗リン脂質抗体症候群では,血小板減少症を合併することがあります。一方,特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病でも抗リン脂質抗体陽性患者は少なからず存在します。両者を鑑別する際のポイント,ならびに血栓傾向と出血傾向が併存する可能性があるので,その対処方法を,北海道医療大学・家子正裕先生にお願いします。
【質問者】
森下英理子:金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 病態検査学教授/附属病院血液内科

【A】

血中に抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody:aPL)が検出され動静脈血栓症や妊娠合併症を呈する抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)では,約3割の症例に血小板減少が認められます。また,APSの臨床症状を認めないaPL陽性者において,血小板減少が認められる場合があり,これは抗リン脂質抗体関連血小板減少症(aPL associated thrombocytopenia)と呼ばれます。これらaPLが起因となる血小板減少症では,治療により血小板が回復すると約半数の症例で血栓症をきたすことが報告されています。一方,特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)患者にaPLが検出される場合もあります。aPL起因性の血小板減少とaPL陽性ITPの鑑別は非常に重要ですが,きわめて難しく,骨髄所見やPA-IgGの有無などでも区別は困難です。
私たちは,多くの場合,臨床症状や血小板数の動き,および血栓マーカーの値から判断しています。APSやaPL関連症状で認められる血小板減少は,その機序の一部(大部分?)がaPLによる血小板の活性化に伴う消費亢進と考えられています。血小板CD62pなどの血小板活性化のマーカーが測定できれば,より確実な診断ができますが,残念ながら一般の臨床検査では難しいと思われます。
まず,出血症状と血小板数の動きを確認します。aPL起因性の血小板減少では出血傾向はないか,きわめて軽度です。血小板減少の程度も5万/μL前後と比較的軽度で,短期間で血小板数の増減を繰り返すことがあります。加えて血栓マーカーであるD-dimerや可溶性フィブリンなどや画像検査で血栓の確認をします。この場合には,aPLによる消費性の血小板減少である可能性が高く,血小板を回復するための治療は行いません。一方,出血傾向が強い場合にはaPLが病態に直接影響している可能性は低いと判断し,血小板を回復する治療を考慮します。
血小板減少症を診た際には,可能なら測定できるすべてのaPL(ループスアンチコアグラントを含む)を測定し,aPL陽性であれば慎重に血栓の可能性や血小板数の変化を確認した上で,治療方針を決定することをお勧めします。

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