【Q】
電話による診察(問診)は,再診料などを請求できますか。遠隔医療システム(テレメディスン)での診療(精神科,皮膚科など)ではどうでしょうか。そもそも,遠隔医療システム(テレメディスン)は診察とみなされますか。
(岐阜県 K)
【A】
本問について,医師と患者をテレビ電話等の通信機器で結び行う診察行為が適法か,また診療報酬でどのような評価になるかをお答えします。なお,質問者による「テレメディスン」をここでは「遠隔診療」と言い換えます。また,『 』内は公式に発出された文書の一部を抜粋したものです。
(1)医師法には抵触しない
ご存じの方も多いと思いますが,平成9(1997)年12月24日の厚生省健康政策局長通知「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(健政発第1075号)(文献1)では,『「診察」とは,問診,視診,触診,聴診その他手段の如何を問わないが,現代医学から見て,疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものをいう』とした上で,『直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には,遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない』としており,その後,数度の改定を経ましたが,医師法との関連についての解釈は一貫しています。
(2)対象疾患や地域に制限はない
前掲の通知に『直ちに医師法第20条等に抵触するものではない』とあるので,場合によっては抵触することもありうるとの斟酌も成り立ち,この後半にある留意事項および別表が適用地域や対象疾患についての制限事項ではないかとの意見が多くありました。
平成27(2015)年8月10日の厚生労働省医政局長による事務連絡(文献2)は,上記の懸念を払拭するべく,留意事項にある適用地域や対象疾患はあくまでも例にすぎないことを明確にしました。また,「患者側の要請」と「患者側の利点」があり,「直接の対面診療との適切な組み合わせ」であれば遠隔診療が先行されてもよいとの解釈も明らかにしました。
本問では精神科,皮膚科を例にされていますが,疾患に制限はありません。また,問診は『一応の診断を下し得る』診療行為とみなされています。
(3)診療報酬での扱い
遠隔診療分について電話等再診での診療報酬請求が可能かどうかとのお尋ねですが,可能です。
電話等再診にテレビ電話が含まれることについて厚生労働省の通知は平成9(1997)年度から一貫しており,前回改定時の「平成26年度診療報酬改定関係資料(通知)」(文献3)によれば,『(7)電話等による再診 ア.当該保険医療機関で初診を受けた患者について,再診以後,当該患者又はその看護に当たっている者から直接又は間接(電話,テレビ画像等による場合を含む)に,治療上の意見を求められた場合に,必要な指示をしたときには,再診料を算定できる』とあります。
加算など再診料に上積み可能な部分についての電話等再診における扱いは複雑です。改定時の通知に,『ウ.乳幼児の看護に当たっている者から電話等によって治療上の意見を求められて指示した場合は,「注4」の乳幼児加算を算定する』とあり,乳幼児についてのみ特例が示されています。ただし,特定疾患等での加算はありません。
また,『エ.時間外加算を算定すべき時間,休日,深夜又は夜間・早朝等に患者又はその看護に当たっている者から電話等によって治療上の意見を求められて指示した場合は,時間外加算,休日加算,深夜加算又は夜間・早朝等加算を算定する』ことも可能です。
平成23(2011)年3月11日の東日本大震災における医療対応において,厚生労働省が電話等による処方箋発行が可能との通知を出したことは記憶に新しいところですが,これは一時的な措置との解釈が多いのです。このことについて,平成26(2014)年5月13日,厚生労働省保険局医療課が事務連絡で『遠隔診療を行う場合であっても,「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(平成9年12月24日付健政発第1075号)に則り遠隔診療を行い,患者に処方せん原本を郵便等により送付するときは,その他の算定要件を満たした上で,処方せん料を算定することが可能である』(文献4)と明示し,処方箋発行についての疑義は消失しました。すなわち,電話等再診と処方箋発行は同一日で問題ありません。しかし,処方箋は患者の選択する調剤薬局で薬と引き換えることになり,その手順等がまだ十分に整理されたとは言い難く,運用上の問題はあります。
(4)電話等再診における制約
一般病床数200床以上の病院における再診は「外来診療料」ですが,電話等による再診料は算定できないと明示されていますので,病院が遠隔診療を行う場合には病床数を考慮する必要があります。
なお,200床未満で電話等再診の算定が可能であったとしても,次に挙げた指導料等は算定できないとただし書きがあります。
・特定疾患療養管理料
・小児特定疾患カウンセリング料
・小児科療養指導料
・てんかん指導料
・難病外来指導管理料
・皮膚科特定疾患指導管理料
・小児悪性腫瘍患者指導管理料
・耳鼻咽喉科特定疾患指導管理料
・小児科外来診療料
・地域連携小児夜間・休日診療料
現代の映像通信技術からみれば制約は大きすぎるように見えますが,1つひとつ臨床的検討を重ね,指導管理も可能であるとのエビデンスを積み重ねることが,今後の遠隔診療の発展に欠かせないものだと言えるでしょう。
(5)診療録には適宜な記載を必要とする
「平成25年度に実施した個別指導において保険医療機関(医科)に改善を求めた主な指摘事項」(文献5)には,『電話等による再診は,当該保険医療機関で初診を受けた患者について,再診以後,当該患者又はその看護に当たっている者から直接又は間接に,治療上の意見を求められた場合に,保険医が必要な指示をしたときに算定できるが,診療録に診療の内容や治療上の指示内容の記載がない例が認められたので改めること。また,電話での指示等が同一日における初診又は再診に付随する一連の行為とみなされる場合には,算定できないものであること。なお,検査結果を説明するだけでは算定できないこと』などとあり,患者側の求めであることを示す患者の訴えと問診内容,具体的な指示内容を診療録に書くのが原則です。
(6)遠隔診療を提供する事業について
最近,対面診療を行わず,電子メール,SNSなどの文字および写真によって得られる情報のみをもとに診療を終わらせるタイプの遠隔診療事業を提供しようとする事業者が複数現れました。
しかし,この回答の(1)で「医師法に抵触しない」とする遠隔診療は,あくまでも「対面診療に代替しうる」とみなされる「診察」が成立する場合であり,適宜に対面診療との組み合わせがなされなければなりません。
平成28(2016)年3月,東京都福祉保健局医療政策部医療人材課長から「インターネット等の情報通信機器を用いた診療(いわゆる遠隔診療)を提供する事業について」(文献6)とする照会が行われ,上記のような事業者は無診察診療を禁止した医師法第20条に違反すると,厚生労働省医政局医事課長から回答(医政医発0318第5号)(文献6)があったことを付け加えます。
1) 厚生労働省.
[http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/johoka/dl/tushinki01.pdf]
2) 厚生労働省.
[http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000094452.pdf]
3) 厚生労働省.
[http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000038904.pdf]
4) 厚生労働省.
[http://ajhc.or.jp/siryo/20140513.pdf]
5) 関東信越厚生局:平成25年度に実施した個別指導において保険医療機関(医科)に改善を求めた主な指摘事項.
6) 東京都福祉保健局.
[http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/joho/soshiki/isei/ian/oshirase/27tuti3.files/280318 betten1.pdf]