京大iPS細胞研究所(CiRA)所長の山中伸弥教授(写真)が4日、医薬品医療機器総合機構(PMDA)科学委員会のシンポジウムで講演した。山中氏は、「私たちが本当に欲しいのは、動物に効かなくても人間に効く薬。患者由来iPS細胞を用いた手法ならば、それを見つけられる」と述べた。
患者から採取した細胞を基にiPS細胞を作製し、任意の細胞に分化・誘導させれば、難病・希少疾患を含むさまざまな疾患の病態を再現できる。同じ細胞を大量に作製すれば、複数の薬剤の有効性を人間の細胞で確認でき、人間だけに有効性を示す前臨床化合物の探索や、既存薬を適応症以外に使用する「ドラッグ・リポジショニング」が促進され、薬の開発コストの低減も期待される。
患者由来iPS細胞を用いたドラッグ・リポジショニングを巡っては、CiRAの妻木範行教授が遺伝性の低身長症「軟骨無形成症」に対するコレステロール低下薬スタチンの有効性を確認している。しかし、妻木氏が実験結果をまとめた論文を『Nature』誌に投稿したところ、査読者は「iPS細胞のデータだけでは不十分」と指摘。人間の病態を反映しているとは言いがたいマウスのデータを付け足すことで、掲載が承認されたという。
山中氏は「医学研究者は実験動物を用いて病態解明や薬の開発を続けてきたが、人間には効かない薬が多く生み出されてきた。人間だけに効く薬に到達するには、従来の創薬のマインドセットを変える必要がある」と訴えた。