【質問者】
新藤正輝 帝京大学医学部附属病院外傷センター長/病院教授
早期坐位獲得,早期離床の観点から手術を早く行うのが望ましいことは当然の理です。麻痺の改善に関しても,脊椎の骨折や脱臼を伴う脊髄損傷では早期手術が望ましいとの考えが欧米で少しずつ強まってきていますが,非骨傷性頸髄損傷の除圧術のタイミングに関しては,欧米においてもcontroversialです。わが国では非骨傷性頸髄損傷の頻度が高いためか,脊髄損傷に対する早期手術の麻痺改善効果は少ないと考えられています。
早期手術を議論する際に,重要な問題点が2点あります。1点は論じられている手術のタイミングが遅すぎることです。脊髄の圧迫により障害が出ているので,手術で圧迫を除く際に再灌流障害の出現を考慮する必要があります。すなわち再灌流障害を減らすためには,手術のタイミングは受傷から6時間以内が適切で,遅くとも12時間以内が望ましい可能性があります。しかし臨床的には,6時間以内に除圧を完了することは非現実的です。全身状態を把握して,安全に手術を行うためには,6時間以内の手術は拙速と判断されるでしょう。もう1点は,手術のタイミングだけで麻痺の改善は決まらないことです。特に気管挿管の期間が長く,リハビリテーションの開始が遅れることは麻痺の改善を妨げる可能性があります。手術とリハビリテーションは同じくらい重要だと考えてよいと思います。
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