新生児マススクリーニング(NBS)で発見された先天代謝異常症の治療に用いられる登録特殊ミルクは,公費と乳業メーカーの負担(折半)で製造され,無償で供給されてきたが,需要の増加に伴い企業の負担が年々増大している
登録特殊ミルクの公費助成対象は20歳未満であるため,成人患者へ供給した場合は全額メーカーの負担となるが,現状では成人への供給が全体の13%まで増加している
登録外特殊ミルクは先天代謝異常症以外を対象としているため,公費の対象とならず,全額乳業メーカーの負担で供給されているが,供給量が大幅に増大している
登録特殊ミルクに対する国庫補助を増額し,対象年齢の制限の撤廃,治療に不可欠な登録外特殊ミルクの登録品化を進めるべきである
将来的には欧米先進国の医療用食品(medical food)の制度を導入すべきであろう
特殊ミルクとは栄養成分を調整した治療用ミルクのことである。ミルクアレルギーや乳糖不耐症などの治療に用いられる特殊ミルクは「市販品」として販売されており,患者家族が薬局から購入することができる。
先天代謝異常症を対象とした特殊ミルクには,薬として処方箋で購入する「医薬品」と無償提供の「登録」特殊ミルクがある。「登録」特殊ミルクの製造等にかかる費用は公費と乳業メーカー負担(折半)で賄われている。さらに,先天代謝異常症以外の疾患の治療に用いられる「登録外」特殊ミルクがあり,乳業メーカーの全額負担で製造されている。
このように,わが国の特殊ミルクは「市販品」「登録品」「登録外品」「医薬品」の4つのカテゴリーに分類されている(表1)。現在,登録特殊ミルクは22品目,登録外特殊ミルクは13品目あり,いずれも特殊ミルク事務局を通して無料で主治医に供給されている。本稿ではこの登録および登録外特殊ミルクの安定供給上の問題点について述べる。
先天代謝異常症は稀な遺伝性の疾患で,多くの場合,発育の遅れや知能障害,痙攣などの症状を引き起こす。治療法が確立されていない疾患もあるが,特定の栄養成分を除去した特殊ミルクを使用することで治療できる疾患が存在する。代表的な疾患がフェニルケトン尿症である。フェニルケトン尿症患児では体内にアミノ酸の一種であるフェニルアラニンが蓄積し,知能障害や痙攣を引き起こす。このフェニルケトン尿症の患児を生後早期に診断し,フェニルアラニンが除去された特殊ミルクを用いて食事療法を行うと,体内のフェニルアラニン濃度が低下し,知能障害を予防できることが1953年に報告された1)。
フェニルケトン尿症以外にも,生後すぐに診断して早期治療を開始すれば,障害を予防できる代謝異常症がある。わが国でも5つの先天代謝異常症を対象に,早期発見のための新生児マススクリーニング(newborn screening:NBS)が1977年度から始まった。疾患ごとに異なる特殊ミルクが必要であるが,各疾患の頻度は数万~数十万人に1人ときわめて低く,乳業メーカーは製造しても利潤を出せない。そこで,国からの補助を受け,先天代謝異常症の治療に必要な特殊ミルクの安定供給を目的とした特殊ミルク共同安全開発事業が1980年に発足した。その窓口が特殊ミルク事務局である。先天代謝異常症の治療に不可欠な特殊ミルクは登録特殊ミルクとして承認され,製造経費は乳業メーカーと公費で折半することになった。また,先天代謝異常症以外の疾患の治療に使用される特殊ミルクも開発され,登録外特殊ミルクとして,全額乳業メーカーの負担で供給されている。
残り3,124文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する