在宅や施設での看取りに対応するため、現場ではどのような取り組みが行われているのか。新潟県魚沼市の代診医システム、長崎市の新人在宅医育成、札幌市豊平区の多施設・多職種連携─。各地域の課題と取り組みを取材した。
魚沼産コシヒカリの産地として知られる日本有数の米どころ、新潟県魚沼市。同市を含む魚沼医療圏は、県の21%の面積を占める県内最大の2次医療圏だが、人口当たり医師数が全国42位の新潟県の中でも最も医師数が少ない地域で、高齢化率は33%(2013年12月末)に達する。新規医療機関の参入はほとんどなく、診療所医師の高齢化も著しい。我が国の地域医療における典型的な課題を抱える地域だが、看取りについては、全国のモデルケースとなりうる連携のシステムが機能している。
魚沼市の看取りを支える中心人物の1人が上村医院の上村伯人院長だ。上村さんは曾祖父が開業し、100年以上の歴史がある診療所の4代目。地域の医療・介護専門職と住民が共に医療を「学び、守り、育てる」ことを目標に設立した地域医療魚沼学校の副校長や地区医師会の理事を務める。
上村さんによれば、魚沼地域の住民は「在宅での看取り」への理解度が高いという。同地域は上村さんの祖父の時代まで冬場の往診はソリを使っていた豪雪地帯。山間部が大半を占めるため、医療機関へのアクセスが悪く、往診や訪問診療自体が大変な環境だ。山間部では、2世代同居が多く、「脳卒中を起こした場合でも回復しないのであれば、そのまま自宅で看取るという意識を住民が持っていると感じます」と上村さんが語るように、地域の文化として在宅看取りが根づいている。
加えて、上村さんと地域の基幹病院、県立小出病院の布施克也院長らが立ち上げた地域医療魚沼学校では、定期的に住民向けの健康講座を開催。平穏死に関する著作のある芦花ホーム(東京・世田谷)の石飛幸三医師の講演には、300人を超える参加者が集まった。こうした取り組みや、上村さんら地域の医療者が、終末期患者の今後予想される状態について家族に十分な説明をするなど地域ぐるみで看取りへの理解をより深めている。
例えば、深夜に亡くなった場合、最後の診療から24時間以上経過しても医師が死亡診断書を作成できることを家族が知っていれば、深夜往診加算を負担せずに済み、医師は翌朝に看取りを行うことができる。医療者と患者家族双方の負担を増やさないという観点からも、看取りへの理解を深めることは重要だ。
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