▶今年に入り、医療用医薬品の偽造品が薬局で調剤され患者の手に渡るという、絶対あってはならない事態が起きてしまった。発端は先月6日。患者が奈良県の薬局チェーンでC型肝炎治療薬ハーボニーを調剤されたものの、服用前に前回調剤された薬と異なることに気が付いた。仮に、初めて服用する患者だった場合、異変に気づくことができたか。今回は際どいところで難を逃れた。
▶発見された偽造品はすべて外箱と添付文書がない状態で流通していた。インターネットで医薬品買い取り業者を検索すると、「箱なしでも買い取りOK」「お客様の秘密厳守」などと宣伝している業者を見つけることができる。相場よりも安価という理由で素性が不確かな医薬品を購入する医療関係者が存在していたことが、今回、偽造品の流通を許してしまう原因の1つになった。
▶世界的にみても偽造医薬品の脅威は増している。世界保健機関(WHO)によれば、世界の偽造品の流通量は750億ドルに達し、途上国の医薬品流通量の10〜30%が偽造品という。一方日本では、2015年に税関で輸入を差し止められた医薬品の知的財産侵害物品は前年の2倍を超え、9万点近く。国内の製薬企業4社が昨年調査した結果では、インターネットで入手する勃起不全治療薬の約4割が偽造品だったという。ネットによる個人輸入で健康被害が発生した事例も確認されている。
▶今回の偽造医薬品問題では患者の健康被害がなかったことが不幸中の幸いだった。これまで日本は世界の中で偽造医薬品対策の優等生であったが、今回の経験から再発防止策を打ち出し、医薬品医療機器等法の強化を含め、さらに重層的な安全網を構築することが待たれる。