出生1000人当たり1~2人は先天性難聴を認め,その約半数は遺伝性難聴である1)。遺伝性難聴は生後に発症することが多いため,先天性と後天性を合わせると,遺伝性難聴は最も患者数の多い遺伝性疾患のひとつである。遺伝性難聴は,難聴のみを呈する非症候群性難聴と,ほかの症状を伴う症候群性難聴に大きく分類される。非症候群性難聴の原因としては,現時点で90以上の遺伝子に1000以上の変異が判明している。遺伝子未同定を含めると150以上の染色体上の坐位が判明しており,今後も遺伝子と変異の数が増え続ける状況である。症候群性難聴としては約500の疾患が知られており,それぞれに原因遺伝子群が存在する。このように,遺伝的原因が極端に多様な点が遺伝性難聴の特徴である。
1990年代の遺伝子解析は,診断に役立つ情報も少なかったため主に研究として進められていた。2000年代に入ると,研究の進展に伴い各難聴の遺伝子の臨床像が明らかになり,遺伝子診断の臨床活用も進んできた。原因遺伝子が判明すると,確定診断,原因の説明,難聴の特徴,経過,そして随伴症状の予測,治療法の選択,再発率の推定などに役立つ2)。
しかし,遺伝子解析の費用,労力,時間の制約のため,臨床での遺伝子検査としては頻度の高いGJB2遺伝子などと,特異的な臨床検査(聴力検査,画像など)所見から可能性が高いと考えられる数遺伝子を調べる(特異的な臨床検査所見がないと調べない)という状況であった。そのため,遺伝子診断率は20~30%と限定的であった。
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