SPRINT試験は,外来収縮期血圧(SBP)120mmHg未満を目標とする積極的な降圧治療が,140mmHg未満を目標とする降圧治療に比べて心血管イベントを抑制することを示した試験である
SPRINT試験で抑制されたのは心不全と心血管死亡,総死亡であり,脳卒中は減少しなかった
SPRINT試験で行われた外来血圧測定法は,日常診療では実行が難しい
外来血圧のみでコントロールを試みる場合は,高齢者においてもSPRINT試験の目標値から7~10mmHg程度高いSBP 130mmHg程度をめざすべきであろう
SPRINT試験は高血圧領域における久々のトピックであり,世界中が注目した臨床試験である。オーストラリアのガイドラインではさっそくSPRINT試験の結果が取り入れられ,高齢者や糖尿病,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)などのハイリスク高血圧患者では収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP)120mmHgを最終目標とすることが発表された1)。しかし,平均BMIが30kg/m2を超え,虚血性心疾患の罹患率が高い欧米人の集団で得られた結果をそのまま日本人に当てはめるのはやや問題がある。本稿では,SPRINT試験の結果を,どの程度日本人に当てはめることができるのかを考えたい。
SPRINT試験2)は,高血圧患者におけるSBPの目標値を120 vs. 140mmHgとした際の心血管イベント予防効果を検証した臨床試験である。対象者は9361例で,選択基準は50歳以上,SBP 130~180mmHg,心血管リスク因子〔(脳卒中を除く)臨床的・無症候性心血管疾患,CKD(多嚢胞性腎症を除く),(年齢,総コレステロール,HDL-C,SBP,高血圧治療の有無,喫煙の有無よりなる)フラミンガムリスクスコア≧15%,年齢≧75歳〕を1つ以上有することとしている。糖尿病,脳卒中既往例は除外されている。外来血圧の降圧目標を120mmHg未満とする厳格治療群と140mmHg未満とする通常治療群に無作為に割り付けて心血管イベント発症率を評価した。
主要エンドポイントとしては,複合心血管病(心筋梗塞,その他の急性冠症候群,脳卒中,心不全,心血管死)の発症を比較した。観察期間は5年を予定していたが,イベント発症で有意差が出たため3.26年(中央値)で早期に中止された。75歳以上の高齢者については2636人(平均年齢79.9歳,女性37.9%)のうち,2510人(95.2%)で追跡データが得られた3)。その結果,75歳以上であっても致死性・非致死性心血管イベント,心不全,総死亡の減少が認められたが,脳卒中の減少効果はなかった(表1)4)5)。一方,これまでに行われた80歳以上の高齢者を対象にした大規模試験の成績では,降圧目標値がSBP 140~150mmHgであっても,脳卒中の発症数は減少しており(表1),そのメタ解析では脳卒中,心血管イベント,心不全の発症数も減少した(図1)6)。したがって,SPRINT試験は,高齢者におけるこれまでの臨床試験の結果とはやや異なっている。
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