保険収載されたRARPは根治性と機能温存の手術アウトカムが高く,標準手術となった
機能温存のアウトカムが飛躍的に向上した
低侵襲性のため,高齢者においても悪性度が高い局所癌に手術適応が拡大している
前立腺癌は,欧米では男性が罹患する癌の中で最も頻度が高く,現在,わが国においても最も罹患率の増加が著しい癌である。本稿では,前立腺癌の手術療法,特にロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(robot-assisted laparoscopic radical prostatectomy:RARP)について紹介する。
前立腺は,骨盤最下部の内骨盤筋膜の外側に位置し,恥骨とは恥骨前立腺靱帯で,仙骨,直腸とは勃起神経に関係する神経血管束を含む靱帯で固定されている(図1)。尿道,前立腺の腹側前面をサントリーニ静脈叢が還流し,この静脈叢を損傷すると大量の出血が生じる。さらに,尿道を短く切り込むと尿道括約筋を損傷し,不可逆的な尿失禁をきたす。前立腺の摘除手術は,25年ほど前までは出血のコントロールが困難であり,また手術後に回復困難な尿失禁,勃起不全をみることが多く,患者に多くの苦痛を与えてきた。
米国のWalshが,1979年にサントリーニ静脈叢について,続いて1982年に勃起神経の分布について解剖学的考察を行い1)2),前立腺全摘除術がより安全に施行できるようになり,機能温存が議論になった。その後の研究の結果,勃起に関与する神経叢が前立腺周囲をあたかも「タケノコ」の皮のように覆っていることがわかってきた。そこで,尿禁制を保つことと勃起機能の温存が,癌の根治に加えて外科手術の主要なアウトカムとして認識されるようになった。さらにPSA(prostate specific antigen)検査の普及により,より早期に癌が発見されるようになり,根治手術の件数が飛躍的に増加した。
前立腺摘除には,狭く,深い骨盤を可視化し,安全に手術操作を行うことが要求されるため,手術手技を習得するまでのlearning curveが長いこと,また放射線治療に比較して尿禁制が不良であることが問題であった。さらに,手術治療,放射線治療ともに勃起機能の温存が困難である。米国の標準的な医療機関における手術後の尿禁制,勃起機能温存のアウトカムが示されているが,手術後多くの患者に尿失禁を認め,また性交可能な程度に勃起機能が回復したものはわずかにすぎない。前立腺全摘除術は男性の尊厳を損なう手術であった。
この状況を大きく変えたイノベーションが手術ロボットである。手術の正確さ,低侵襲性,手術教育の効率化が手術ロボットにより飛躍的に改善された。
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