2017年2月22日から2日半,米国ジョージ・R・ブラウン・コンベンションセンター(ヒューストン)において,国際脳卒中学会(ISC)第27回学術集会が開催され,5000人を超える専門家が集まった。最先端の急性期治療やデバイスなどの成績も数多く報告されたが,ここでは日々の診療に役立つと思われるトピックスを取り上げたい。
米国では現在,米国心臓協会(AHA),米国心臓病学会(ACC)と関連9学会が,本年の公表をめざして,高血圧ガイドラインを作成中である。そのガイドラインとの関係で注目されているのが,SPRINT研究1)である。以下,本学会における議論とデータを紹介する。
(1)積極降圧による脳卒中減少が認められなかったのはなぜか
既に報告されている通り,SPRINT研究は心血管イベント高リスク例*に対する「収縮期血圧(SBP)<120mmHg」を目標とする積極的降圧の有用性を示したランダム化試験である。「SBP≧130mmHg」だった9361例が,SBP「120mmHg未満」を目標とする「積極」降圧群と「135~139 mmHg」の「通常」降圧群にランダム化され,二重盲検で追跡された。本研究で特徴的なのは,血圧の測定法である。通常とは異なり,診療所内で医療従事者の立会いなく自動血圧計で測定された,3測定値の平均が用いられている。
その結果,一次評価項目である「心血管系死亡・心不全・冠動脈イベント・脳卒中」リスクは,「通常」群(平均SBP 134.6mmHg)に比べ「積極」群(121.5mmHg)で相対的に36%,有意に減少していた。
問題は「脳卒中」である。血圧に敏感なイベントだとされているにもかかわらず,「積極」群における有意な減少は認められなかった〔ハザード比(HR);0.89,95%信頼区間(CI);0.63~1.25〕。
この結果について,マウントサイナイ病院(米国)のClive Rosendorff氏は,本学会の「SPRINT研究が示唆するところ」と題する講演の中で,「SPRINT研究の追跡期間の短さ」に起因している可能性を指摘した。すなわち,2型糖尿病例を対象に同様の降圧介入を比較したACCORD試験では,「積極」群の脳卒中発生率に「通常」群と差を認めたのは,試験開始から3年半を過ぎた時点だった(最終的にHR;0.59,95%CI;0.39~0.89)2)。そのため,追跡中央値が3.26年間のSPRINT研究では,差が認められなくとも不思議はないというのである。SPRINT研究も「より長期間観察していれば,11%の脳卒中相対リスク減少が,有意になっていた可能性がある」と,Rosendorff氏は述べた。
*高リスクでも脳卒中既往例と糖尿病合併例は,ほかの試験で検討されているため除外されている。
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