2017年3月17日から3日間,米国ウォルター・E・ワシントン・コンベンションセンターにおいて,米国心臓病学会(ACC)の第66回学術集会が開催された。参加者は約1万5000名。本年はLate Breakingセッションだけで,23試験が報告された。その中から日常診療に近いと思われる話題を取り上げたい。
PCSK9抗体は,従来薬にない強力なLDLコレステロール(LDL-C)低下作用が報告されてきた。では,これまで以上にLDL-Cを低下させれば,心血管系イベントはさらに減るのだろうか。この疑問に答えたのが,ランダム化比較試験 FOURIERである。ブリガム・アンド・ウィミンズ病院(米国)のMarc S. Sabatine氏が報告した。
本試験の対象は,スタチン服用下で「LDL-C値≧70mg/dL,または非HDL-C値≧100mg/dL」,かつ心血管系リスク因子を有する,脳・心・末梢血管疾患既往患者2万7564例である。全例,「有効用量のスタチン(アトルバスタチン20mg相当以上)」服用の上,PCSK9抗体エボロクマブ群(140mg/隔2週,または420mg/隔月)とプラセボ群にランダム化され,二重盲検法で追跡された。
その結果,26カ月間(中央値)追跡後,1次評価項目である「心血管系死亡・冠動脈イベント・脳卒中」発生率は,スタチン群の11.3%に比べ,PCSK9抗体群では9.8%と,有意に減少していた〔ハザード比(HR);0.85,95%信頼区間(CI);0.79〜0.92〕。心血管系死亡・心筋梗塞・脳卒中の2年間治療必要数(NNT)は74例になるという。
一方,心血管系死亡と総死亡のHR(95%CI)はそれぞれ,1.05(0.88~1.25)と1.04(0.91~1.19)だった。心血管系死亡リスクが減少しなかった点についてSabatine氏は,積極的LDL-C低下療法の有用性を検討した他の試験でも同様だと述べた上で,心筋梗塞や脳卒中発症後死亡率の近年における著明低下が一因ではないかとの見解を示した。
さて,試験開始時に92mg/dLだったLDL-C中央値は,PCSK9抗体群では30mg/dLまで低下し,試験期間中維持された。一方,プラセボ(スタチンのみ)群のLDL-Cはおおむね90mg/dLのまま推移した。90mg/dLというLDL-C達成値は,PROVE-IT(62mg/dL)1)やSPARCL(73mg/dL)2)など,過去のランダム化比較試験における高用量ストロングスタチン群に比べて高い。本試験におけるストロングスタチン服用率は約70%,エゼチミブ併用率は5%強だった。なお,試験開始時に定められていた脂質異常への背景治療は,「最大耐容用量アトルバスタチン(欧米では80mg/日まで)±エゼチミブ」という,きわめて強力なLDL-C低下療法だった。しかし約7カ月後,なぜか「有効用量のスタチン」へ変更されている(ClinicalTrials.gov. 2013年8月26日)。
最後に,約30mg/dLまでLDL-Cを低下させた場合の安全性だが, 「重篤な有害事象」「薬剤中止が必要となった有害事象」「筋障害」のいずれも,両群間に差はなかった。さらにPCSK9抗体に関連する有害事象として懸念されていた「白内障」や「神経認知イベント」の発生率にも,この観察期間では差を認めなかった。
本試験のスポンサーは,Amgen社である。
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