▶安倍晋三首相は1月の施政方針演説で、3年後に迫った東京五輪・パラリンピックの機会を活かし、受動喫煙対策を徹底する考えを表明した。しかし、現在はその発言がトーンダウンしているようだ。3月24日の参議院予算委員会で松沢成文議員(無所属)が、屋内禁煙を原則とする厚労省の受動喫煙対策強化案と分煙を推進する自民党議連案について「どちらが受動喫煙対策を徹底しているか」と質問。安倍首相は「どちらが良いという段階ではまだない」「私に評価を求めるのはご勘弁いただきたい」と述べ、判断を示さなかった。
▶昨年10月の「New England Journal of Medicine」誌に、たばこ対策と政治に関して興味深い論文が掲載された。『オバマ時代のたばこ規制』と題する論文(Michael C:N Engl J Med. 2016;375:1410-2.)によると、オバマ政権下において米国の喫煙率の低下が大幅に加速。年間当たりの減少幅は、クリントン政権時(0.28ポイント減)、ブッシュ政権時(0.36ポイント減)の2倍以上となる0.78ポイント減で、2015年には喫煙率が15.3%にまで低下した(日本の喫煙率は18.2%、2015年)。この理由について論文は、政権発足から2年間に行われた複数の立法措置に基づき、国や非営利団体、民間団体などさまざまなレベルで計画的かつ組織的に、たばこ対策を実施したためと分析している。
▶国のトップの政治主導により、着実にたばこ対策の成果が上がることをこの論文は教えてくれる。厚労省案と自民党議連案は大きく乖離しており、議論の着地点はまだ見えない。現在の膠着した状況を打開するために、受動喫煙対策の徹底に向けた安倍首相のリーダーシップを求めたい。