医療施設を訪問して広報理解のお話をする時,歯痒く思うことがいくつかあります。特に「サービスとは何か」「組織とは何か」について,わかっているようで間違った認識をしているケースが多いことです。知識としては備わっていても,相手の主観的評価を認識し体で対応できる人は少ないのが現実です。一般企業であれば,自社の理念や商品性を知らなければ毎日の仕事になりません。
広報とは無関係と思われるかもしれませんが,自組織が関わる社会との位置関係を認識していなければならないという意味で,「サービスとは何か」「組織とは何か」の理解は重要になってきます。そこに関心が集まらない限り,結果を出す仕事・組織にはなりえないのです。
まず「サービスとは何か」について,サービス価値を3つの特性に整理して見ていきます。
有形の多くの商品は実物の形や手触り感を得ることができますが,サービス業が提供する「役務(実質価値)」は,カウントしたり交換・返品はもとより自動販売機で売ることもできません。一時期は,サービスを日本語で「おまけ(無償のサービス提供品)」と理解してきました。その後サービス産業が隆盛し,形がないものを有償で提供することで社会に役立つ「役務」という多くのサービス業が出現しました。宅配便や映画館など,多くはサービスという無形商品の販売をしているのです。雰囲気や印象の工夫,実感や場のイメージを大切にして,結果的に有益な役務の提供がビジネスとして成り立っています。
サービスの生産・消費という概念について,タクシーを例に考えてみましょう。地点Aで乗り込んだら行き先Bを告げて,あらかじめ決められた料金を降車時に支払う,世界のどこにでもある仕組みです。運転手はハンドルを持ってBをめざします。これをサービスの「生産」といいます。その間お客さんはお化粧をしようが,スマートフォンを操作しようが自由です。これをサービス価値を「消費」するとします。有形商品なら工場などで「生産」された製品を後日現物と引き換えに現金やカードで買い,「消費」を始めることになります。有形商品は生産と消費に時間差があるのに対して,無形(サービス)商品は生産と消費が同時という特性を持っています。
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