病歴(検査データは異常値のみ)
46歳,男性。会社員(トラック運転手)。
20代は普通体重であったが,結婚後に体重が増加し,40歳になった時に特定健診でメタボリックシンドロームを指摘された。20歳から体重は15kg増加している。特定保健指導を受け,3kgの減量に成功したもののリバウンドした。昨年の健康診断で,血糖136mg/dL,HbA1c 6.6%で糖尿病が疑われ,医療機関受診を勧奨された。医療機関を受診したところ,75gブドウ糖負荷試験(OGTT)で糖尿病と診断され,栄養指導を受けた。すると,「そんなに食べていないのに太る」「家族も皆,太っているので体質である。遺伝だから仕方がない」と答え,やる気はあまりなさそうである。
家族歴:糖尿病なし,父と母ともに肥満傾向。飲酒:家では飲酒せず,機会飲酒のみ。喫煙:過去に喫煙,現在は喫煙なし。運動:運動習慣なし。食生活:野菜はあまり好きでない,よく間食する。つい食べてしまう。
問題点
▶肥満体質を持つと考えている患者への減量指導
▶患者は「水を飲んでも太る」と減量指導に抵抗する
両親や兄弟姉妹が太っており,患者は肥満しやすい体質だと考えている。そういった患者に対して,どんな減量指導をしたらよいのかがわからない。
「水を飲んでも太る体質」と思い込んでいる患者の減量指導は困難であることが少なくない。中には,「空気を吸っても太る」と訳のわからないことを言う患者もいる。厳しく指導しても,患者は指導に従うわけではない。体重が減らなければ良好な血糖コントロールは得られず,糖尿病薬はどんどん増加してしまう。
「水を飲んでも太る体質」だと勘違いしている人も多い。しかし,基礎代謝を測定してみると大半の患者は正常範囲にある。確かに,レプチン遺伝子やレプチン受容体遺伝子異常の症例では著明な肥満を呈することが知られている。双生児研究によると,過食させると体重の増加には相同性が認められる。体重の増加には遺伝の関与が認められる。たとえば,熱産生と脂肪分解に関わるβ3アドレナリン受容体の遺伝子多型がBMIに及ぼす効果は,メタ解析でプラス0.31kg/m2程度と報告されている1)。
肥満者では「太りやすい体質だ」などの認知のゆがみが認められる。肥満者では「食べていないのに太る」などの過少申告が認められる。この認知のゆがみを修正する(食べるから太る)ことが大切である。
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