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(10)高血圧─自己判断しないための指導 家庭血圧に一喜一憂してしまい,1日中血圧が気になって仕方がない[特集:困った患者の生活習慣指導]

No.4722 (2014年10月25日発行) P.59

編集: 津下一代 (あいち健康の森健康科学総合センター センター長)

登録日: 2016-09-01

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  • 病歴
    67歳,女性。主婦。
    40歳代後半より,高血圧を指摘され治療を開始した。現在,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を朝食後に,Ca拮抗薬を朝・就寝前に服用している。また50歳代後半より不安神経症,不眠症の診断で心療内科に通院している。
    既往歴:45歳時子宮癌のため子宮摘出術を受ける。家族歴:母親に脳梗塞の既往あり。飲酒,喫煙:なし。運動:ウォーキング30分を毎日行っている。
    家庭血圧を起床後と就寝前に測定しているが,変動が大きいため,さらに服薬前後を中心に何度も測定し,夜の血圧が低い時には自分の判断で就寝前の服薬を中止して深夜に再測定するなどしている。血圧手帳には,測定時刻と測定値がぎっしり書き込まれ,降圧薬を調節したことなどが記載されている。身長152cm,体重46kg,BMI 19.9,診察室血圧136/78mmHg。生化学検査値に特記すべき異常はなく,高血圧に伴う臓器障害の所見も認めない。

    1. 医師はどのような点に困っているのか?

    問題点
    ▶家庭血圧を測定するごとに値が気になり,一喜一憂する

    毎日の家庭血圧測定を勧めたところ,「測るたびに違う数値が出る」と言って,頻回に測定するようになった。また測定値によって勝手に薬を調節することもある。「家庭血圧を測定し,1日を通じて血圧管理をすることが重要だ」と説明したことが裏目に出て,「1日中,血圧が気になって仕方がない」という状況をつくってしまった。

    2. 困難となる患者の状況をどう整理するのか?

    (1)患者─医師の信頼関係

    高血圧治療の指標として診察室血圧以上に家庭血圧が重要であることは明らかであり,特に診察室血圧と乖離する「白衣高血圧」や「仮面高血圧」の検出は重要である。したがって医師は,すべての高血圧患者に家庭血圧測定を勧めるべきである。しかし,この患者の場合,測定結果を自分で解釈して薬の飲み方を変えるなど医師の指示に従わない行動を取っており,家庭血圧測定を勧める際の注意点について説明不足であったと考えられる。特に,この患者は不安神経症で心療内科に通院中でもあったことから,治療に際して十分な信頼関係を構築することに配慮する必要があった。

    (2)血圧変動に対する正しい知識

    まず,患者が言っている「測るたびに違う数値が出る」というのは,当たり前であることを理解させる。心拍数が1分間に60だとすると,1日では8万6400回の心拍があり,同じ数の血圧値が存在する。血圧は,呼吸や自律神経の生理的変動など内因性変動および体位,食事,運動などの身体活動,気温などの環境要因,精神活動などの外因性変動により常に変動している。したがって,同じ数値が続くことはないことを明確に理解させることが重要である。
    この患者の場合,測定値の1つひとつを気にして測定を繰り返す行為そのものが精神的ストレスとなり,血圧を変動させる要因となっていることを説明し,測定結果の評価は医師に任せることを強調する。また,自己判断による降圧薬の調節がさらに変動の要因となることも説明する。

    (3)家庭血圧の測定法

    日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)』では,(家庭血圧の測定方法,条件を示している(24ページ表1参照)1)。家庭血圧は,朝,起床後1時間以内,排尿後,朝食前,服薬前と就寝前に各2回測定し,平均値で評価する。血圧変動の要因となる服薬,食事,入浴,飲酒などの前後で測定することも有用であるが,あくまでも医師の指示に基づいて測定すべきである。
    最近は夜間血圧の意義が強調され,夜間睡眠時に自動で測定する家庭血圧計も登場しているが,夜間に起きて自己測定することは無意味である。1機会での測定回数は原則2回とし,4回以上の測定は勧められない。大切なことは,測定値に一喜一憂せず,すべての値を記録して主治医に見せることである。
    一般的に2回連続で測定した場合,2回目が低値であることが多いが,筆者らが正常血圧者および高血圧者を対象として起床後の血圧を2回連続して1カ月測定し,1回目の平均値と1回目と2回目の差を検討した成績(図1)2)では,2回目の収縮期血圧低下度は高血圧群で4mmHg,正常血圧群では1mmHgにすぎなかった。

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