アレルギー性鼻炎患者の治療満足度は約92%に達し,薬剤貢献度も90%以上に達している。しかし,環境因子などの原因により患者数は増加している
アレルギー性鼻炎の発症機序は免疫反応,炎症反応,組織反応に分類され,それぞれの反応に作用する治療薬がある
病態が変化する中での薬力学(動的薬力学)は臨床における薬理作用を理解し,薬剤を適正使用するための有用な知見となる
アレルギー性鼻炎の患者は1960年代から増加しはじめ,1998年と2008年の鼻アレルギーに関する全国疫学調査による10年間の変化についての解析では有病率は29%から39%と増加がみられ,国民の1/3はアレルギー性鼻炎患者と言える1)。さらに,世界的にも2010年には約6億人がアレルギー性鼻炎患者と推定され,わが国のみならず患者数は増加している。その原因は,多角的研究により環境要因が主体であることが明らかにされた。
一方,治療については,近年の基礎および臨床研究の進展やガイドラインの普及により有効な方法が確立されつつあるが,患者数の減少には直結しない。ヒューマンサイエンス振興財団のアンケート調査および医薬産業政策研究所の報告2)3)によると,わが国におけるアレルギー性鼻炎の治療満足度は1994年に約50%,2009年は約58%であったが2013年には約92%と,大きく上昇した。さらに,治療における薬剤貢献度も,同様の調査では1994年に約60%,2009年は約74%であったが2013年には90%台と,上昇している。ただし,花粉症の治療満足度は上記の値よりかなり低いままである。
アレルギー性鼻炎の治療満足度が上昇したことは臨床家の不断の努力によるものであるが,基礎研究の観点からはアレルギー治療薬の薬力学(pharmacodynamics)研究の進歩も,その一助となったものと思われる。薬力学は,一般に作用部位に到達した薬剤が薬理作用を発現する細胞内機序などを研究する学問である。しかし,アレルギー性鼻炎のように亜慢性的炎症を伴う病態では,抗原の反復曝露により症状が変化し,病巣部では受容体の数や性質が変化するため,病態の動的変化を考慮した研究が必要である。したがって,従来の薬理学で研究された,いわば静的状態での薬力学の観点から,病態が変化する中での動的薬力学による観点が,臨床における薬理作用を理解する上でより重要となる。
本稿では,現在行われている基礎および臨床研究から明らかにされつつある,アレルギー性鼻炎治療薬の薬力学について概説する。
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